CRMは顧客情報の管理を通じて営業活動のパフォーマンスや売上向上に役立つツールです。CRM導入で成果をあげた企業がある一方で、CRMの導入に失敗、あるいは導入してもほとんど成果があがらないまま使われなくなったという企業も少なくありません。
この記事ではCRM導入の失敗の要因、導入のコツ、問題解決の具体的ステップについて解説します。
CRMの導入に失敗する要因
CRM導入に失敗する要因には主に5つあります。ここでは、5つの要因についてそれぞれ解説します。CRM導入を検討している企業は、自社のCRM導入に失敗しないためにも、失敗する要因を確認していきましょう。
導入目的が曖昧
CRM導入に失敗してしまう1つめの要因は「導入目的が曖昧」なことです。
「CRMの導入により売上増加につながった」という声がよく聞かれますが、CRMは導入しただけでは顧客が増えたり、売上が増加したりする訳ではありません。CRMを使って顧客分析を行ったことで自社の課題が明確になり、課題を解決するためのアクションを実施したことで導入効果を得られるのです。導入目的が曖昧なままCRMを導入しても、CRM導入の効果を得ることは難しいでしょう。
また、CRMの導入自体が目的化してしまって導入に満足し、その後使用されないこともあります。CRMは業務効率化に高い効果を期待できるツールですが、せっかくの機能を使いこなさなければ宝の持ち腐れとなってしまいます。せっかく導入したのであれば、導入後にしっかりと定着化を図り、顧客情報を分析してアクションに移すことができなければ導入効果を期待できません。
CRMは手段であり目的ではありません。CRMの導入後に効果を得るためには、CRMに蓄積されたデータを解析し、解析結果をもとに「改善策の検討」「新しい施策の実施」が必要です。CRM導入で効果を得るためにも、CRM導入の目的を明確にし、目的に合った方法で業務改善を行うことが大切です。
データの活用方法が練られていない
CRM導入に失敗してしまう2つめの要因は「データの活用方法が練られていない」ことです。
CRMの導入目的の多くが「営業担当者や部門ごとに点在している顧客データを一元管理することで、顧客対応の向上を図る」というものです。しかし、ただデータを一元管理したとしても、分析方法をしっかりと検討せず、うまく活用できないのであれば、業務の改善見込めないでしょう。
その一方でデータの分析を始めると、あれもこれもと対象データを増やしていきがちです。その結果、分析対象データが増えてしまい、改善策につなげるためのデータの落とし込みが不十分になりがちです。
CRMにはさまざまな角度で分析できるレポート機能が備わっています。そして、それを活用し、目的に合ったレポートを作成することで、「どこがボトルネックになっているのか?」などの分析を行うことができます。このように登録されたデータをさまざまな角度で分析し、レポートとして目に見える形に表し、売上につなげることで価値があるものとなります。
このため、いかに登録されたデータを活用し、どのような分析を行うかを検討し、活用方法をしっかりと練ることが肝心です。
目的や運用に合わないCRMを選ぶ
CRM導入に失敗してしまう3つめの要因は「目的や運用に合わないCRMを選ぶ」ことです。
ひと口にCRMといっても、各社からさまざまなツールやサービスが提供されています。そして、同じような機能であっても使い勝手、性能、費用、カスタマイズの仕方はまちまちです。
CRMベンダーによってはカスタマイズによって、中にはプログラミングによってさまざまな機能を開発し、さまざまな業務に適用できることを謳い文句にしているところもあります。しかし、プログラミングによって機能開発を行った場合、プログラムの保守・運用要員を抱えられない企業の場合、何か現場から改修要望があがってきたとしても対応できないことがほとんどです。
また、顧客情報の活用・分析を目的としてCRMを導入したとしても、画面入力が複雑で使い勝手が悪いために結局導入したCRMが使われず、結局元々使っていたエクセルの運用に戻ってしまった例もあります。この例では操作性や機能面での使い勝手を考慮せずに評判だけでCRMの導入を決めてしまったことが原因です。
このように、自社の体制や運用に合わないCRMを選んでしまうと稼働後にトラブルのもとになりかねません。
CRM導入に対する社員からの理解を得られない
CRM導入に失敗してしまう4つめの要因は「CRM導入に対する社員からの理解を得られない」ことです。
経営者をはじめとした上層部だけでCRMの導入を決めてしまうことがあります。現場の理解を得られないままではせっかく導入したCRMも使われなくなってしまいます。なぜなら、実際にCRMへのデータの入力や運用を行うのは、他でもない現場の人間だからです。
データの入力など、CRMの導入で現場の人間の負荷はかかります。それに対して現場の人間は「入力の負荷がかかるのであれば協力したくない」と抵抗感を示す社員もいるでしょう。また、CRMの習熟に対する意欲も欠くことになりかねません。
CRM導入の効果は現場がCRMをいかに使いこなすかにかかっています。CRM導入のメリットを経営者が強調したとしても、現場がそのメリットを実感できなければ導入に対する意欲をかき、せっかく導入したとしても放置状態になりがちです。
せっかく導入したとしても現場にそれを活用しようという意思が欠けていれば、その効果を得ることができません。まずは経営者がCRM導入に対するメリットを社内に共有し、現場の理解を得ることが大切です。
運用体制ができていない
CRM導入に失敗してしまう5つめの要因は「運用体制ができていない」ことです。
CRMは全社で活用することが一般的です。また、企業組織は営業部、マーケティング部、人事部、経理部、システム部など、さまざまな部門で構成されています。当然、部署ごとに方針や取り巻く状況は異なります。このため、CRMの運用にあたっては部門間を調整する人材を登用し、部門をまたいだ運用体制を構築しないと上手くいきません。
また、CRMの運用にあたっては専門的な知識が必要であることから、問い合わせなど相談できる窓口が必要です。しかし実際は、そのような窓口を準備することなく導入してしまうことがよくあります。その結果、相談事項が発生したとしても相談できるところがないため、「何のメリットがあるのか?」といった不満の声が大きくなり、期待された効果を得られない結果となってしまいます。
せっかくCRMを導入したとしても、運用していくことが出来なければ運用停止になりかねません。このため、CRMの導入後もスムーズに運用できるよう運用体制を構築し、部門間をまたいで調整・相談できる人材を用いることが大切です。
CRM導入の失敗による影響
CRMの導入に失敗すると今後のシステム導入や社内の人間関係に影響を及ぼすなど、さまざまなダメージが残ります。では、CRM導入の失敗による影響にはどのようなものがあるでしょうか?ここでは導入失敗による影響について3つ紹介します。
CRMの導入作業が徒労となり疲弊感が社内に残る
1つめは「CRMの導入作業が徒労となり疲弊感が社内に残る」です。
CRMの導入には期間もコストもかかります。また、導入にあたっては部門間やベンダーとの調整や合意形成が必要です。その一方で「要件を実現する機能がないため、代替案の検討が必要」など、導入作業中に次々と問題が発生します。CRMの導入作業は問題なくスムーズに行われることが稀であり、問題に遭遇しながらも何とか解決し、苦労の末に導入作業の完了を迎えることが一般的です。
しかし、CRMの導入作業が必ずしも成功するとは限りません。「次々と発生する問題に対処しきれず、CRMの導入が頓挫した」、「想定以上の作業工数がかかり、予算オーバーとなってプロジェクトが中止となった」など、導入に失敗するケースは多々あります。
とはいえ、CRMの導入に失敗すると、これまでやってきた作業は単なる徒労となってしまいます。せっかくの苦労が水の泡であり、報われない作業の結果、疲労感だけが社内に残ります。また、導入を推進してきた担当者のモチベーションにも影響が残ります。
そして、CRMの導入失敗の影響は徒労感や疲労感が社内に残るだけではなく、今後のシステム導入や社内における人間関係にも影響を及ぼします。
失敗イメージにより今後のシステム導入が厳しくなる
2つめは「失敗イメージにより今後のシステム導入が厳しくなる」ことです。
CRMの導入にはベンダーに支払うライセンス費用のみならず、構築に関わる社員の人件費や外部のコンサルタント費用など、構築に関わる作業の初期投資が必要です。そしてこれらのCRMの導入に関わる費用は決して安いものではなく、経営会議での決裁が必要なほど高額な投資になることが一般的です。しかし、CRM導入に失敗するとこれらの投資費用が無駄になってしまいます。
そうなると、CRM導入失敗のイメージが経営層にも印象として残ってしまい、新たなシステムを導入したいと現場が考えていたとしても、「また導入に失敗するのではないか」と考えてしまいます。そうなると、今後のシステム導入に二の足を踏むことになりかねません。
また、仮に稼働したとしても、期待通りの成果があがらなければ、費用対効果の観点から、やはり今後は経営層の目はシステム投資に対して懐疑的な目を向けるでしょう。
このように、CRMシステム導入の失敗、あるいは期待通りの成果があがらなければ、今後のシステム導入が厳しい状況に陥ることになるかもしれません。
経営層や管理層と現場の対立構造ができかねない
3つめは「経営層や管理層と現場の対立構造ができかねない」ことです。
CRM導入の失敗の原因の1つに「経営層が独断で導入を決めてしまい、現場の理解を得られないままCRM導入のプロジェクトがスタートした」というものがあります。「何のために導入するのか?」「自分たちの仕事はどのように変わるのか?」など、目的が共有されないままプロジェクトがスタートしてしまい、結果、プロジェクトが頓挫したなどです。
とはいえ、経営層が自ら導入作業を行う訳ではなく、現場の社員がプロジェクトリーダーやプロジェクトメンバーに指名され、導入を進めることになります。このため、プロジェクトリーダーやプロジェクトメンバーの中には「経営層が勝手に導入を決めてしまったシステムに対して、何で自分たちが導入を推進しなければならないんだ?」と不満を持つ者もいるかもしれません。また、新システムの導入に対する抵抗勢力との調整などから疲弊を感じ、導入を決めた経営層に対する不満を引き起こすかもしれません。
このような場合、導入経緯の不満や導入プロジェクト作業の”やらされ感”などから、経営層や管理層と現場の対立構造ができかねません。
CRM導入のコツ
既存記事の見出し「ツールの導入ありきで失敗」で書かれているように、方法を決めるよりも先に目的を明確にすることで成功に導けると解説してください、コツを押さえていない場合の例として、「ツールの導入ありきで失敗」で書かれている具体例を入れてください。
これまではCRM導入失敗の要因や導入失敗による影響を解説してきました。では、CRMを上手く導入するためにはどうすればよいのでしょうか?ここではCRM導入のコツを3つ紹介します。
CRM導入の目的を明確にする
CRMの導入において、導入の目的を明確にすることが一番最初にやる作業です。「なぜCRMを導入するのか?」「何のためにCRMを導入するのか?」が分かれば、やるべき作業の方向性が見えてきます。また、CRMの導入の差異には社員やCRMベンダーの担当者など、多くの人たちの協力のもと、作業を進めます。CRM導入の目的が明確であれば、関係者の意思統一にも大きな効果をもたらします。
それぞれが別の方向を向いていては導入作業も混乱を招きます。「何のために導入するのか?」「どんな効果を期待して導入するのか?」など、導入の目的を明確にすることで、目指すゴールもはっきりと見えてきます。
CRM導入の目的の多くが「営業活動の効率化」と「売上アップ」です。このため、これらの目的を実現するためにも、数値目標を掲げて検討するのもよいでしょう。
CRM導入を成功に導くためにも、まずは目的を明確にすることから始めましょう。
自社の目的に合ったCRMを導入する
CRMにはシンプルなものから高機能なものまでさまざまな種類があります。中には複雑なプログラミングで機能を実装することでさまざまな業務に対応できることを売りにしているベンダーもあります。自社の目的を考慮せずにネームバリューや高機能だけで飛びついてしまうと費用対効果を得られにくい結果となる可能性が高いです。このため、ネームバリューや高機能というだけで飛びつくのではなく、自社の目的に合ったCRMを導入することが大切です。
そのためにも複数のCRMを比較し検討することをおすすめします。比較検討を行うことでCRMの特徴や具体的な活用法など、より理解が深まります。本命の製品があるからといって比較検討作業を怠ると、「要件を実現するための機能がない、あるいは想定以上の工数がかかる」など、導入作業時に思わぬ落とし穴にはまり込むかもしれません。比較・検討作業はこれ自体が成功のためのアクションとなるので、時間と手間をかけずに比較作業を進めていきましょう。
CRM導入後の管理体制を整える
目的を持って導入できたとしても、稼働後に管理・運用することができなければ意味がありません。また、CRMを使っていくうちに「こんな使い方はできないだろうか?」「こんなデータが欲しい」とさまざまな要望があがってきます。これらの要望に応えていくためにも導入後の管理体制の検討・構築が必要です。
CRMを単なる顧客リストで終わらせないためにも、入力したデータを分析し、戦略に発展させるためにも、CRM導入後の管理体制を整えていきましょう。「データの分析結果を自社の戦略に発展させることができない」という担当者もいるでしょう。そんな場合は、外部のコンサルタントなどを雇いましょう。
管理体制の整備とともに運用に必要な役割やルールを定めておくことも必要です。稼働直後は担当者も慣れていないことから何らかの混乱が生じ、業務が停滞しかねません。予め役割やルールを定めておくことで、混乱を回避することができます。
経営課題を解決する具体的なステップ
ここでは経営課題を解決するための具体的なステップを紹介します。CRMの導入の目的には何らかの経営課題の解決を目指していることが一般的です。経営課題を解決する具体的なステップを実施することで、CRM活用の検討にも役立つでしょう。
《step1》KGIを設定
step1は「KGIを設定」です。
KGIとは「Key Goal Indication」の略称であり、日本語では「重要目標達成指標」と呼びます。企業の目指す最終的な数値目標です。KGIを設定する意義は「企業が達成すべき目標を数値で設定することで、誰がいつまでに何をやるかが明確になる」ことです。
KGIを設定するにあたって役に立つのがSMARTモデルです。SMARTとは以下の5つの頭文字を取ったものです。
- Specific(明確性)
- Measurable(計量性)
- Achievable(現実性)
- Result-oriented or Relevant(結果指向または関連性)
- Time-bound(適時性)
特に「4.Result-oriented or Relevant(結果指向または関連性)」は「企業の理念・ビジョン」あるいは「経営目標」に関連していることがポイントです。
また、「2.Measurable(計量性」や「5.Time-bound(適時性)」からも分かるように、SMARTは具体的な数値を用いてアクションを決めた目標設定となっています。例えば、「1年後の売上高を150%にする」「半年後の顧客訪問数を2倍にする」などです。
このように、KGIを設定するには具体的な数値やアクションを明確にできるSMARTモデルを用いるとよいでしょう。
《step2》KPIを設定
step2は「KPIを設定」です。
KPIとは「Key Performance Indicator」の略称であり、日本語では「重要業績評価指標」と訳されます。目標達成のための各プロセスにおいて、達成度合いの進捗と評価を行うための指標です。
KPIはKGIで設定した目標を達成するために行うアクションを定量的な目標として設定したものです。具体的には以下の通りです。
- 営業部門:組織としての売上達成に必要なアクションと数値目標(商談数や受注数など)
- マーケティング部門:見込み客を集客するための具体的な販促活動と数値目標(コール数や問合せ数など)
KPIを設定するメリットは、「目標達成への行動が明確になること」です。取るべき行動やあげるべき成果が明確になるため、目標達成の道筋が明確になります。また、目標達成に必要なアクションや数値が明確になるため、進捗状況も測定しやすいこともメリットです。
《step3》施策の実行とモニタリング
step3は「施策の実行とモニタリング」です。
ここではKPIで設定したアクションの実行と進捗や設定した数値に対する達成度合いを測定します。モニタリングのタイミングは日次・週次・月次などさまざまです。商材や顧客特性などによって適切なモニタリング期間を定めることが必要となります。
また、モニタリングによって現場のさまざまな課題や改善点など、現場の実態を把握できます。また、一定のタイミングで確認を行うために早期の問題発見と問題解決を行うことができます。
例えば、「受注件数が伸びない」という問題点があがったとします。その要因は「提案数が足りない」のか、「問合せ数が少ない」のかなど、KPIで定めた他のアクションのモニタリング結果の比較によって原因と問題解決につながる改善策が発見できます。このとき、「提案数が足りない」のであれば、提案数を増やすために必要な改善策を検討することが必要となります。
《step4》振り返りと改善案の検討
step4は「振り返りと改善策の検討」です。
1サイクルが終わったとき、KGIが達成できたかどうかを判断します。ただ、KGIが達成できたからといって、それで終わりというわけではありません。「振り返りと改善策の検討」を行うことが必要です。
仮にKGIを達成できたとしても、その過程の中でさまざまな課題や改善点があるはずです。振り返りのタイミングで、モニタリング期間中に見えた課題や改善点をあげ、対策を講じることが必要です。
よく用いられる振り返りの手法の1つに「KPT」があります。KPIとは以下の頭文字を取った略語です。
- K(Keep):良かったことや、これからも継続すること
- P(Problem):問題点や改善点
- T(Try):挑戦することや、改善に必要なアクション
KPTを用いた振り返りでは一般的に「KeepやProblemはよくあがるものの、Tryがなかなかあがらない」という声がよく聞かれます。特に「Try」を明確にすることで、今後やるべきアクションが明確になるので、「Try」を具体化し、実際にアクションすることで組織力強化につながります。
まとめ
この記事ではCRM導入の失敗の要因、導入のコツ、問題解決の具体的ステップについて解説しました。
CRM導入失敗の要因として「導入目的が曖昧」「データの活用方法が練られていない」「目的や運用に合わないCRMを選ぶ」などがあります。導入に失敗すると、その後のシステム導入や社内の人間関係に影響を及ぼしかねません。このため、CRM導入の目的を明確にするなど、失敗しないための方策を講じることが大切です。
CRMの導入を検討しているのであれば、この記事の内容を参考に方策を講じ、CRM導入を成功に導いてください。