[基礎学習]エンタープライズ市場への参入検討とターゲティング

エンタープライズ市場は、大きな商機と高い成長ポテンシャルを秘めている一方で、参入には慎重な判断と明確な戦略が求められます。このレッスンでは、自社がエンタープライズ市場に参入するべきかを見極めるための判断基準とステップを整理するとともに、実際に営業を進めるうえでのターゲティングの考え方と実践方法について具体的に解説します。

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[基礎学習]エンタープライズ市場への参入検討とターゲティング
目次

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エンタープライズ営業に取り組むべきかの判断基準

エンタープライズ営業は、組織に大きなビジネスチャンスをもたらす可能性を秘めていますが、営業活動の難易度が高く、長期的な投資も必要になる取り組みです。自社が本当にエンタープライズ市場に参入すべきかどうかを判断するには、慎重な検討が必要です。ここでは、その判断に役立つ基準と検討の進め方について整理します。

エンタープライズ市場参入の判断基準

エンタープライズ顧客との継続的な取引を実現するには、営業担当者だけでなく、製品開発、マーケティング、カスタマーサクセスなど、複数の部門が一体となって協力する体制が必要です。また、エンタープライズ市場では求めるサービスレベルも高くなるため、参入には、相応のリソースと多大な投資が必要になります。

安易にエンタープライズ市場に参入してしまうと、想定していたリターンが得られず、投資回収は難しくなるリスクもあります。そのため、「本当に自社がエンタープライズ市場に参入すべきなのか」を複数の視点から慎重に判断するようにしましょう。

ここからは、エンタープライズ市場への参入を検討する際に押さえておきたい判断基準の5つ解説します。

経営戦略との整合性

エンタープライズ市場への参入は、単なる営業活動の延長ではなく、企業の成長戦略に関わる重要な意思決定です。参入にあたっては、経営層が中長期的な視点で「なぜ今、エンタープライズ市場を狙うのか」を明確に位置づけている必要があります。

例えば、「安定的な売上基盤の確保」「ブランド認知度の向上」「業界トップ企業との取引による信頼獲得」など、エンタープライズ市場への参入によって得られる成果が、自社の経営方針と一致しているかを確認すべきです。

単に「売上を増やしたい」という短期的な目的だけでは、リードタイムが長く投資回収に時間のかかるエンタープライズ営業を継続する意義が薄れ、取り組み自体が中途半端に終わる可能性があります。理想的には、経営方針とエンタープライズ市場への参入がどのようにリンクしているかを明文化し、社内の関係者の間で共通認識を形成しておくことが望ましいでしょう。

また、参入を決めた後も、経営方針との整合性を見ながら現行の営業活動とのバランスを決めていく必要があります。

ビジネスモデルやサービスとの整合性

エンタープライズ市場に参入する前に、自社の製品やサービス、提供体制がエンタープライズ顧客の期待に応えられるかを見極める必要があります。

例えば、汎用的な製品を短期的に大量に販売するモデルや、継続的な利用につながりにくい低単価の製品は、エンタープライズ市場には適していない可能性があります。

一方で、長期契約や継続利用が前提となるSaaS型サービスや、業務プロセスに深く関与する高付加価値のソリューションを提供している企業は、エンタープライズ市場で大きな成果を上げることが期待できます。

また、エンタープライズ市場では、製品やサービスに対する期待値が非常に高くなります。特に求められるのは、次の2点です。

  • 個別ニーズへの柔軟な対応力
    大企業は、画一的な製品をそのまま導入することは稀であり、自社の業務フローや組織体制に応じたカスタマイズが必要となります。競合との差別化を図るうえでも、個別の顧客ニーズに対応できる製品やサービスであることが望ましいでしょう。
  • 導入後のサポート・運用支援体制
    エンタープライズ顧客との関係性は、一度の取引で終わるものではなく、継続的な信頼構築が前提となります。そのため、導入後も継続してサポートや運用支援を提供できる体制があるかどうかが重要な判断ポイントとなります。
    顧客満足度の向上と維持の両面から、自社の組織体制にその準備が整っているか、あらかじめ確認しておきましょう。

もし現時点でこれらの要件を満たすのが難しい場合には、エンタープライズ市場への参入を見送る判断も必要です。あるいは、ビジネスモデル自体の見直しや新たなサービス開発を視野に入れることが現実的な選択肢となるでしょう。

組織文化や成熟度との整合性

エンタープライズ営業は、「個人戦」ではなく「組織戦」です。案件の獲得からクロージング、導入支援、サポートに至るまで、マーケティング、営業、技術部門、カスタマーサクセスなど、複数部門が密に連携しながら対応する必要があります。

そのため、以下のような組織文化や仕組みが不可欠です。

  • 失敗に寛容で、挑戦を後押しする文化があるか
    エンタープライズ営業は、時間もコストもかかるうえ、失注リスクも高い領域です。その中で成果を出すには、試行錯誤を繰り返せる文化が必要です。失敗を許容し、新たな挑戦を歓迎する組織風土が根付いているかどうかを見極めましょう。
  • 縦割りではなく、全体最適を志向する文化・仕組みがあるか
    エンタープライズ営業では、複数部門の連携が不可欠なため、情報やナレッジを部門横断で共有できる仕組みが整っているかがポイントとなります。
    縦割り体質が強く、各部門が個別最適を優先するような環境では、必要な協力体制を築くのが難しく、成果につながりにくくなります。
  • プロジェクト型マネジメントに慣れているか
    案件ごとに関係部門が連携し、タスクを定義し、進捗管理・リスク管理を行う必要があります。指揮命令系統をどう設計し、誰が主導するかも含め、部門横断型のプロジェクトを円滑に推進できる仕組みがあるかが問われます。
    もし、組織全体が短期成果重視やトップダウン型で、部門の自立性や連携が弱い場合は、まず文化変革から始める覚悟が必要です。もちろん、エンタープライズ営業の取り組みを通じて組織文化を変えていくことも可能です。ただしその場合は、成果が出るまでにより長い時間がかかる点を考慮しなければなりません。

営業スタイルやスキルセットとの整合性

SMB営業(中堅・中小向け営業)とは異なり、エンタープライズ営業では、営業担当者やマネージャーに求められるスキルの幅と深さが大きく異なります。特に以下の3つの能力が不可欠です。

  • 課題抽出・仮説検証型の提案力
    顧客自身も明確に言語化できていない「潜在課題」を見つけ出し、仮説を立てて論理的に提案へと落とし込む力。
  • 顧客内の複数の関係者を巻き込む関係構築力
    意思決定者が複数存在するため、個別のキーパーソンごとに信頼関係を築き、社内調整を主導する力。
  • 長期的なフォローアップ力
    数ヶ月〜数年単位での商談プロセスが前提となるため、短期的な成果に一喜一憂せず、継続的に信頼関係を構築していく粘り強さや目的意識を持ち続ける力。

こうしたスキルを営業組織がすでに備えているか、または段階的に育成できる体制が整っているかどうかが、エンタープライズ市場に対応できるかどうかの大きな分かれ目となります。

投資対効果への許容度

エンタープライズ営業は、成果が出るまでに時間がかかるビジネスモデルです。

例えば、最初の商談獲得までに6か月、受注までに1年、さらに収益化にはそれ以上の期間を要することも珍しくありません。そのため、短期的な成果に依存しない財務的な耐久力、すでに収益を支える柱が組織にあることが前提となります。また、投資とリターンのバランスを中長期のスケジュール感で捉えられる視座が、経営陣・営業組織総合に求められます。

初期段階では、売上や受注額といった最終的な成果ではなく、「どれだけターゲット企業との接点を持てたか」「顧客理解がどこまで深まったか」などの中間成果指標(KPI)を設定して、進捗を評価する必要があります。

経営陣が短期的な成果ばかりを求める姿勢では、エンタープライズ営業は必ず行き詰まります。リスクとリターンのバランスを冷静に評価し、持続的に投資できるかを事前に確認しておく必要があります。

エンタープライズ市場参入の判断のステップ

先ほど解説した判断基準を踏まえたうえで、自社が本当にエンタープライズ市場に参入すべきかを検討するには、次のステップを順を追って進めて判断していきます。

エンタープライズ市場への参入判断ステップ

現状整理とギャップ分析

まずは、自社の営業組織の現状、提供しているサービス特性、リソースを棚卸しし、エンタープライズ営業で求められる要件との間にどのようなギャップがあるかを明確にします。

ターゲットイメージの設定

つづいて、どのようなエンタープライズ企業をターゲットとするのか、その企業像を明確に定義します。想定ターゲットに対して自社がどのような価値を提供できるかのかという仮説を立て、希望的観測に基づいた無理なターゲティングになっていないかを慎重に見極めることが重要です。

社内合意形成

参入判断を進めるうえでは、営業部門だけでなく、マーケティング、開発、カスタマーサクセスなどの関係部門と連携し、「なぜ今、エンタープライズ市場に参入するのか」「どのようなリスクと投資が伴うのか」を共有します。そのうえで、経営層からの承認を得ます。

小規模検証(スモールスタート)

エンタープライズ営業への本格展開を進める前に、まずはターゲットを絞り、数件の案件創出を目指す小規模な検証フェーズを設けます。そこで実際の手応えや課題を確認しながら、成功パターンの有無を見極め本格展開に進みます。

また、すでに想定ターゲットに近い顧客企業との取引実績がある場合には、その取引プロセスを振り返り、再現可能なアプローチがあるかどうかを検証するところからスタートしましょう。

エンタープライズ営業のターゲティング

エンタープライズ営業では、限られたリソースを効率的に活用し、高い成果を上げるために「どの企業に力を注ぐか」を戦略的に見極めることが極めて重要です。

単なるリスト作成ではなく、勝てる領域に集中するための戦略的なプロセスとして捉えましょう。

ターゲティングの目的

エンタープライズ営業においてターゲティングは単なる「見込み顧客リスト作り」ではありません。ターゲティングの本質的な目的は、限られたリソースを最大限に活用し、高い成果につなげるための戦略設計にあります。

エンタープライズ市場は、一般的なSMB(中堅・中小企業)市場とは異なり、以下のような特徴を持ちます。

  • 対象企業数が圧倒的に少ない
  • 商談リードタイムが長い
  • 意思決定者が複数存在し、合意形成が複雑
  • 高度な提案力・プロジェクト推進力が求められる
  • 成約した場合の1件あたりの売上・利益インパクトが大きい

このような市場特性においては、やみくもな営業活動をしても時間とコストが消耗するばかりで、成果に結びつきません。だからこそ、「どの企業に、どのリソースを、どのタイミングで投入するか」という判断を最適化するために、精緻なターゲティングが必要不可欠になります。

ターゲティングの目的は大きく次の5つに整理できます。

リソースの集中と最適配分

営業、マーケティング、開発、カスタマーサクセスなど、各部門のリソースを優先度の高いターゲットに集中的に投入する。

個別最適なアプローチ設計

業界特性、事業課題、組織構造といった要素に応じて、ターゲット企業ごとにアプローチ方法を設計し、「量より質」の営業活動を実現する。

戦略的な営業活動の体系化

個人の勘や属人的な判断に頼るのではなく、一貫性と再現性のある営業プロセスを設計・共有し、チームで実行できる体制を築く。

マーケティング施策との連動強化

ターゲティング結果をもとに、イベント、コンテンツ、広告施策などもターゲット企業に向けて最適化し、営業支援施策を強化する。

成果の可視化とPDCAサイクル推進

ターゲットリスト単位で成果指標(接点数、案件化率、受注率など)を設定・管理し、戦略のブラッシュアップを図る。

ターゲティングとは、単に「どこを攻めるか」を決める作業ではなく、「どこに勝ち筋があり、どう勝ちに行くか」という営業戦略そのものを設計する行為です。

エンタープライズ営業の成否は、この最初のターゲティング精度でほぼ決まると言っても過言ではありません。

ターゲティングの手順

エンタープライズ営業におけるターゲティングの基本ステップは以下の通りです。

ターゲティングの手順

1. 市場の定義とセグメンテーション

まず大枠として、どの市場(業界・業種・地域)をターゲットとするかを定義します。例えば、以下の観点でセグメントを切り分けていきます。

  • 業界別(例:製造、金融、流通、IT、公共など)
  • 地域別(例:首都圏限定、関西圏中心、全国対応可など)
  • 企業規模別(例:売上500億円以上、従業員数1000名以上)
  • 成長性・投資意欲(例:直近5年の売上や利益の伸び率)

ここで重要なのは、「自社の強みと親和性が高い市場」を選定することです。

自社の過去実績、導入事例、提供価値を棚卸しし、「どの領域なら勝てるか」の仮説を立てながら市場を絞り込みます。また、企業規模なども、単に売上や従業員とするだけでなく、受注に至った場合にどのくらいの購入数となるか(購入ポテンシャル)をベースにセグメントを定義するとよいでしょう。

2. ターゲット企業リストの作成

市場を定義したら、実際にターゲットとなる企業をリストアップします。

使用する情報源としては、以下のようなものが考えられます。

  • 帝国データバンク、東京商工リサーチなどの企業データベース
  • IR情報(上場企業の場合)や中期経営計画書
  • 組織図や人事情報
  • 業界誌、業界団体の公開資料
  • 人脈などから得られる情報
  • 直接営業活動を実施して手に入れた情報
  • 製品やサービスの導入事例

ターゲットリストは、このあとのステップを効率よく進めるための重要な資産になるため、時間をかけて丁寧に作成しましょう。この段階でターゲット数が多すぎたり、少なすぎたりする場合には、セグメントの見直しを行います。

3. 評価基準の設定と優先順位付け

リストアップした企業すべてに同じリソースを投入することはできません。

そこで、以下のような評価基準をスコア化し、優先順位を付けたり、すでに取引のあるエンタープライズ企業と同じ属性や特徴を持つ企業の優先度を高くします。

  • 購買ポテンシャル
  • 自社サービスとの親和性
  • 対象領域・業務の戦略的な優先度/投資意欲
  • 過去の接点の有無(展示会来場、資料請求、旧知のパートナーなど)
  • 導入済み製品・サービスとの競合優位性

数値化できる項目はスコアリングし、定性的な情報(例:「経営者が新規提案に積極的」など)もメモに残します。

当初からどの程度のリソースを割くのかにもよりますが、重点リストを10~20社程度に絞って、活動を始めるとよいでしょう。

4. キーパーソンの特定

ターゲット企業内で、意思決定に関与する「キーパーソン」を特定していきます。

ターゲットとなる役職・部署例は次の通りです。

  • 経営層(CEO、CIO、CMOなど)
  • 事業部長(利用部門のトップ)
  • 調達部門・システム部門責任者(調達部門・システム部門のトップなど)
  • 経営企画部門(新規事業・DX推進のキーパーソン)

情報収集には、会社四季報、企業サイトの役員紹介、プレスリリース、展示会やセミナーの登壇情報などを活用します。また、パートナー企業や顧客企業のOBなどと接触を持ち、間接的にキーパーソンの特定と接点構築を行うことも並行して行いましょう。

いきなりキーパーソンを特定したり、接触できないことも多いため、すでに接触のある担当者にアプローチを行い、顧客に役立つ情報提供等を行いながら、キーパーソン情報収集を進めることも必要です。

5. ターゲット別アカウントプランの立案

ターゲットごとに、個別のアカウントプラン(営業戦略書)を作成します。

アカウントプランには次のような内容を整理していきます。

  • 企業概要(業界情報、企業情報、業績推移、事業内容、主な顧客や競合)
  • 組織図とバイヤー相関図
  • 想定される課題とソリューションの仮説
  • 想定される関与部門・キーパーソン
  • 中長期のアクションプラン
  • 短期(1年)のアクションプラン
  • 目標KPI(接点数、商談数、受注額)

実際に接触してみないことには、ターゲット企業の実態は見えてこないため、初期段階のアカウントプランには時間をかけすぎずに、徐々にブラッシュアップする意識で作成すると良いでしょう。

6. ターゲティングの見直しと最適化

ターゲティングは「一度作ったら終わり」ではありません。特にエンタープライズ市場にこれから参入する場合には、初期のターゲティングでは精度が低くなるため、情報収集活動を行いながら定期的に見直しを行う必要があります。

エンタープライズ市場への参入初期段階では、3か月に1回程度、その後も半年に1回程度ターゲットの前提やリストの優先順位などの見直しを行いましょう。

見直す際には、

  • 初期段階の前提や仮説に大きな誤りがなかったか
  • 活動して見えてきた事実や仮説の変化
  • ターゲット業界や企業の動向変化(M&A、事業再編など)
  • アプローチ結果や受注率、失注理由の分析
  • 新たに成長してきた有望企業の追加
  • 社内リソース状況や市場環境の変化

などを踏まえて再検討を行いましょう。

まとめ

エンタープライズ営業の成否は、エンタープライズ市場への参入判断の精度とターゲティングの質に大きく左右されます。

経営戦略や自社の製品やサービスとの整合性を確認し、的確なターゲティングを行なわなければ、エンタープライズ営業活動の成果を最大化できません。流行りだからとか、儲かりそうだからと安易にエンタープライズ市場に参入せずに、じっくり検討した上で活動に取り組みましょう。

次のレッスンでは、ターゲット企業ごとに作成するアカウントプランについて詳しく解説していきます。