[基礎学習]エンタープライズ営業のマネジメント

属人的な管理になりがちなエンタープライズ向けの営業活動は、複雑な組織構造や多数の関係者の存在によって管理が難しくなることが多いです。だからこそ、組織的に営業活動をマネジメントし、成果を最大化するためには、営業マネジメントの体系的な理解が不可欠です。
このレッスンでは、営業マネジメントの基礎知識に加えて、エンタープライズ営業ならではのマネジメントの考え方、そしてKGIやKPIなどのマネジメント指標を活用した管理手法を解説します。SMB(中堅・中小企業向け)営業とエンタープライズ営業の違いをふまえたうえで、実践的なマネジメント手法を学んでいきましょう。

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[基礎学習]エンタープライズ営業のマネジメント
目次

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営業マネジメントの基本

営業マネジメントの基本は、営業活動を属人化させず、再現性のある成果を生み出すための仕組みをつくることです。

一般的な企業の営業組織では、さまざまな活動を営業担当者のスキルや経験に依存しがちですが、組織としての営業力を高めるためには、「営業プロセスの標準化」や「プロセスに基づく管理指標の明確化」が求められます。

ここでは、まず営業マネジメントの基本として「営業プロセスの標準化」について確認し、そのうえでSMB営業とエンタープライズ営業におけるマネジメント手法の違いを解説します。

営業プロセスの標準化

営業マネジメントの出発点は、「営業プロセスの標準化」です。

これまで属人的な営業活動に頼ってきた組織では、営業活動の進捗状況を把握し、適切な行動を取るためのプロセスやルールが明確になっていない場合が多いでしょう。そのような状況で組織的な営業力を向上させるためには、適切に定義された営業プロセスに基づく管理を行うことが求められます。

しかし、営業プロセスを初めて定義する場合には、自社の営業活動視点でプロセスが組まれることが多いです。例えば、「アプローチ」「ヒアリング」「提案」「見積」「交渉」「契約」といった営業プロセスが挙げられるでしょう。

自社の営業活動視点での営業プロセス例

こうした営業担当者の行動ベースのプロセス管理も間違いではありませんが、営業担当者の行動を管理しやすい一方で、顧客の検討プロセスとのズレが生じやすくなります。

例えば、顧客がまだ情報収集段階で見積を求めていないにもかかわらず、営業担当者が見積書を提示してしまうと、見かけ上は営業プロセスが進んだように見えます。しかし、実際には顧客の購買意思決定は伴っておらず、結果として受注予測や最終的な受注金額がずれるリスクが生じます。

そのような状況を避けるためには、顧客視点を中心とした営業プロセスの定義が必要です。例えば、「課題認識」「情報収集」「比較・検討」「社内稟議」「意思決定」「交渉」「契約」といったように、顧客が社内で予算を獲得し、製品やサービスを導入する過程(=購買プロセス)を基準に設計された営業プロセスが重要です。顧客がどの段階でどのような情報を求めているのかを基準にした設計により、営業活動のズレを防ぎます。

顧客の購買プロセスに基づく営業プロセス例

このように顧客の購買プロセスに沿った営業プロセスを定義することで、提供すべき情報や行うべき活動が的確になり、結果的に顧客からの信頼も得やすくなります。

さらに営業マネジメントの視点では、営業プロセスが明確になることで、個別の案件の進捗把握に加え、進捗状況に応じた適切なアドバイスの実施、組織全体の受注予測、活動結果に基づく営業プロセスの改善や各担当者の教育などにも活かせるようになります。

適切な営業プロセスを定義し、営業マネジメントに求められる仕組みを組み立てていくことで、組織としての営業力を向上させていくことが可能となります。

SMB営業とエンタープライズ営業のマネジメントの違い

ここまで営業マネジメントの基本について解説してきましたが、営業スタイルが異なれば、マネジメントのあり方も異なります。例えば、SMB(中堅・中小企業向け)の営業活動では「リード数(見込み客数)を最大化し、確度の高い顧客や案件に絞り込んでいく」というファネル型の活動が中心です。少しでも可能性のある見込み客を幅広く集め、その中からより可能性の高い顧客を見出していく活動といえるでしょう。

そのような活動では、目標達成に向けて「リード数」「商談数」「案件化率」「受注率」といった量的指標の管理が重視されます。最終的に数値目標を達成できれば良いという確率論的なマネジメントが行われます。

一方、エンタープライズ営業では、戦略的に決定したターゲット企業へのアプローチが基本です。特定の企業やグループを起点として、段階的に活動を展開していく必要があります。つまり、確率論的に数を追うのではなく、「いかにしてターゲット顧客の課題に深く入り込み、社内の意思決定構造を理解し、戦略的に関係を構築していくか」が問われる活動です。この違いから、マネジメントにおいても「リード数や案件数の多さ」ではなく、「顧客課題の理解度」や「キーパーソンとの関係性」といった質的指標の管理が重要になります。

さらに、エンタープライズ営業では、案件ごとの進捗管理に加えて、顧客との関係性構築の一連の流れをプロセスとして捉え、その段階ごとに必要なアクションを標準化することが求められます。

また、顧客との関係性構築のプロセス管理を補完・具体化するものとして、各社ごとに定めたアカウントプランを活用したマネジメントも行われます。

アカウントプランとは、例えば「顧客の課題整理」「意思決定者リストの洗い出し」「個別商談の状況」「導入・活用計画」「展開シナリオ」など、企業単位での情報を整理・共有する計画書のことです。

営業マネジメントでは、このアカウントプランと関係性プロセスの定義を組み合わせて進捗をモニタリングし、案件単位ではなくターゲット企業単位で営業活動の進捗度を定量・定性の両面から把握することが重要です。

ここからは、より詳細にエンタープライズ営業のマネジメントに求められる要素を解説していきます。

エンタープライズ営業のマネジメント

エンタープライズ営業におけるマネジメントでは、単に目の前の案件を追いかけるだけではなく、「顧客との関係性」「案件の戦略的位置づけ」「活動の質と優先度」といった複合的な要素を組み合わせた管理が求められます。

営業担当者一人ひとりの動きを統合的に捉え、チームとして戦略的に動けるようにするためには、顧客との関係性の段階に応じた活動設計、役割の明確化、リソース配分と他部門との連携設計が不可欠です。

ここからは、エンタープライズ営業のマネジメントを進める上で欠かせない、「顧客管理・案件管理・活動管理」の3つの視点から、エンタープライズ営業に求められるマネジメントの具体像について解説します。

なお、マネジメントの3つの視点は、それぞれ独立して存在するものではなく、顧客との関係性の進捗度や各案件の戦略的重要性に応じて相互に連動しながら設計・運用されるべきものであることに注意しましょう。

顧客管理

エンタープライズ営業における顧客管理は、顧客との長期的な関係性をいかに戦略的に構築し、維持・発展させていくかのマネジメントです。

顧客との関係性を戦略的にマネジメントするには、案件進捗のような短期成果の追跡だけでなく、顧客との関係性を段階的なプロセスとして捉え、その進捗度を可視化・管理していく視点が不可欠となります。

例えば、顧客との関係性は一般的に以下のようなプロセスで整理できます。

顧客との関係性構築プロセスの例

それぞれのプロセスの段階は、以下のようなイメージとして整理できます。

接点構築:

顧客企業の担当者や関係者とまずは人間関係を築き、情報収集や信頼の土台を作る段階。小さな要望や相談にも真摯に対応し、継続的な接点を持つことで後の提案活動の土壌を整える。

課題共有:

顧客の現場課題や経営課題を深掘り、双方で共通認識を持つ段階。顧客の視点に立ち、単なる製品・サービスの提案ではなく、顧客の悩みを一緒に言語化・整理し、解決すべき優先課題を特定する。

共創提案:

自社の製品やサービスを軸に、顧客課題に対する具体的な解決策を共同で検討・設計する段階。単なる売り込みではなく、顧客と共に成果を生む視点で提案をまとめ、実現可能性や効果を擦り合わせる。

経営巻き込み:

現場レベルだけでなく、顧客の経営層や意思決定者を巻き込み、戦略的な重要案件として位置づける段階。経営層の期待やビジョンを理解し、提案内容が全社戦略と整合していることを示す。

信頼定着:

提案後の導入・実行フェーズで約束した価値を着実に提供し、結果を出すことで信頼を確立する段階。問題発生時の迅速対応や改善提案も含め、単発の取引を超えて長期関係を築く礎とする。

社内展開:

顧客企業内で関係を広げ、他部門や他部署への展開を図る段階。横展開によって、自社の存在感を全社的に高め、依存度を深めていく。現場~経営の各層と接点を持つことが重要。

社外展開:

顧客企業のパートナー企業や関連業界への広がりを目指す段階。共創事例をもとに外部への影響力を強化し、業界内でのポジションを高める。新たな案件や共同ビジネスの創出にもつなげる。

これらの段階はあくまで一般論です。自社の製品・サービスや顧客・業界特性に合わせて、自社なりの関係性構築プロセスを定義すると良いでしょう。

さらに、このような関係性のプロセスを補完・具体化するものが、レッスン3で詳しく解説したアカウントプランです。アカウントプランは、特定の顧客に対する中長期的な行動計画書であり、主に以下の情報を構造的に整理します。

  • 顧客企業概要
  • 顧客の戦略と課題の仮説
  • グループ企業と組織図
  • ポテンシャルマップ
  • バイヤー相関図
  • アクションプラン(中長期・短期)

このアカウントプランと関係性構築のプロセスを紐づけることで、営業担当者が行うべきアクションを具体化できます。

例えば、接点構築の段階では、「顧客の戦略と課題の仮説について、内部情報を確認し精度を上げる」、「バイヤー相関図で課題共有に進めためのキーパーソンを特定する」といったアクションが考えられるでしょう。

顧客管理とは単なる情報の蓄積ではなく、顧客ごとの成長シナリオを描き、それを社内で共有・実行するための枠組みです。営業マネジメントの中核に据えることで、エンタープライズ営業の成果を安定的に積み重ねていく基盤となります。

案件管理

エンタープライズ営業における案件管理では、個別の案件状況に一喜一憂するのではなく、より大局的な視点でその案件の位置づけと意義を把握することが重要です。これは決して個別案件を軽視するわけではありません。むしろ、それぞれの案件の進捗状況を丁寧に把握し、プロセスごとに適切な対応を取ることももちろん必要です。

案件管理では、案件がどのプロセスにあるか(例:「課題認識」「情報収集」「比較・検討」「社内稟議」「意思決定」「交渉」「契約」など)を明確にし、活動の抜け漏れを防ぎます。プロセスを定義し、必要なアクションを標準化することで、営業担当者の対応品質が安定し、マネージャーも的確なアドバイスや支援が可能になります。

さらに、顧客との関係性のプロセス(例:「接点構築」「課題共有」「経営巻き込み」など)と個別案件のプロセスを組み合わせて管理することにより、その案件が関係性の深化にどう寄与するかを明確にすることができます。

例えば、まだ接点構築フェーズにある顧客であれば、初回案件は「信頼構築のきっかけ」として位置づけられ、「収益性」よりも「提案スピード」や「対応の柔軟性」、「自社の技術力の高さの証明」などが重視されるべきです。

逆に、すでに複数部門と深い関係性を築いている顧客であれば、個別の案件は「既存の価値の再確認」や「拡張の起点」として扱われるべきであり、より高収益・高難度の提案が可能です。このように関係性プロセスと個別案件との紐づけることで、案件の戦略的な意味合いを整理し、営業活動の優先順位を見極めることができます。

さらに、この整理によって、他部門への協力依頼も論理的かつ説得力のある形で行えるようになります。例えば、「この案件は経営巻き込み段階にあり、今後の全社展開を見据えてPoC(実現可能性の検証)が必要」といった説明があれば、技術部門やカスタマー作成部門も納得感を持って支援に入ることができるでしょう。

営業マネジメントの観点では、案件を個別に管理するだけでなく、それが顧客戦略全体の中でどのような役割を果たしているのかを把握し、アカウントプランと連携させていく視点が求められます。これにより、営業組織としての一貫した判断と行動が実現し、成果の再現性も高まります。

活動管理

エンタープライズ営業における活動管理では、単なる営業行動の記録や量のモニタリングにとどまらず、「戦略的に顧客関係を深化させるための活動設計と優先順位付け」が求められます。特に、これまで説明してきた顧客との関係性プロセスや、案件の戦略的な位置づけと連動させて管理することが、マネジメント上の大きなポイントとなります。

活動は大きく2つに分けて考えると分かりやすくなります。

1つ目は「案件推進に関する活動」、2つ目は「顧客深耕・関係性構築のための活動」です。前者は、見積提示や提案書提出、PoCの調整といった短期的な成果に直結する行動であり、明確なマイルストーンとKPIで管理しやすい活動です。

一方で後者は、必ずしもすぐに成果が見えるわけではないものの、長期的な信頼関係を築くうえで極めて重要です。例えば、「業界動向に関する情報提供」「経営層との1on1面談」「技術部門との共同勉強会開催」などが挙げられます。

こうした活動は、関係性のプロセスに応じて、適切なタイミングで投入されるべきものです。営業マネージャーの役割は、こうした2種類の活動を可視化し、それぞれのバランスを考慮しながら営業担当者に対して戦略的な行動計画を示すことです。

例えば、「今期は信頼定着フェーズの顧客が多いため、個別の案件活動よりもカスタマーサクセス部門と連携した顧客満足度向上施策を優先する」といった判断ができれば、全社的に一貫した行動が取れるようになります。

加えて、リソース配分に関しても、関係性の深い顧客や重要度の高いアカウントに対しては、1対1の専任体制や上位職による訪問などを充て、信頼の厚みをつくる戦略が必要です。逆に、初期接触段階の顧客には、インサイドセールスやマーケティング施策を活用し、効率的に接点を増やす体制を整えることが有効でしょう。

このように、エンタープライズ営業における活動管理は「行動量」だけの管理ではなく、「戦略的意味づけに基づく行動の最適化」であると捉え、顧客との関係性や案件の位置づけと整合性を取りながら進めることが、営業の質を高めるマネジメントとなります。

エンタープライズ営業のマネジメント指標

エンタープライズ営業におけるKGI(重要目標達成指標=何をもって目標達成と判断するか)とKPI(重要業績評価指標=KGIを達成するために必要な行動など)の設計では、単なる売上目標や行動件数管理では不十分です。

顧客との関係性の質や、長期的な成果につながる活動の評価を含めた多面的な指標設定が求められます。ここでは、顧客との関係性と案件/活動数といった二つの面から、指標の考え方について解説していきます。

顧客との関係性のマネジメント指標

顧客との関係性を深めるマネジメントをするうえで、KGIとKPIの設定は極めて重要です。

KGIは、自社の業績に直結する数値であり、例えばターゲット企業単位で見た場合には、年間取引額や企業内シェアなどが適切でしょう。ただし、エンタープライズ市場へ参入したばかりの段階では、取引額がほとんどないといったこともあるため、自社の状況に応じた指標の設定が必要です。

一方、KPIについては、量的な指標だけでなく、質的な指標が求められることが多く、その扱いが難しくなります。質的な情報をいかに数値情報として管理するかがポイントです。

先ほど顧客管理のセクションで説明したように、顧客との関係性は「接点構築」「課題共有」「共創提案」「経営巻き込み」「信頼定着」「社内展開」「社外展開」といった段階で捉えられます。それぞれのプロセスに対応したKPIを設けることで、顧客との関係性の深さを可視化できます。

例えば、接点構築段階では、「接触人数」「接触部門数」「顧客側からの相談件数」といったKPIを管理します。また、アカウントプランの更新頻度を管理することで、顧客情報収集が進んでいるかどうかも確認できるようになります。

  • KGI例:対象企業との年間取引総額、企業内シェアなど
  • KPI例:接触人数、接触部門数、顧客からの相談件数、アカウントプランの更新頻度、キーパーソンとの定期面談実施数、経営層との接点数、提案数など

顧客との関係性マネジメントにおいては、いかに関係性を「見える化」できるか最大のポイントです。KGIとKPIをセットで捉え、定性・定量の両面から継続的に把握・改善する仕組みを作ることで、顧客との信頼を資産化し、長期的な取引関係へとつなげていくことができます。

案件/活動管理のマネジメント指標

案件管理と活動管理におけるKGI/KPIの設計では、単なる受注率や活動件数といった一般的な営業指標に加えて、「顧客の関係性プロセスとの連動」を前提とした設計が重要です。

エンタープライズ営業では、案件や活動が顧客戦略全体の中でどのような位置づけにあるかを明確にし、それに基づいてマネジメントする必要があります。

  • KGI例:単年度の受注額、クロスセル・アップセル実績など
  • KPI例:勉強会開催数、商談発生数、提案書・見積書提出件数、意思決定者への提案機会数、顧客満足度など

これらのKGI/KPIは、顧客との関係性ステージと合わせて評価されることで、より的確な優先順位設定と活動の意味づけが可能になります。

例えば、「接点構築」段階の顧客に対しては、直接案件とは関係ないセミナー参加数や勉強会開催数などをKPIとして設定し、「信頼定着」段階の案件では、顧客満足度や他部門紹介数などをKPIとして設定するなど、柔軟な指標運用が効果的です。

案件と活動を「数値」だけで管理するのではなく、「意味」を持って管理することが求められます。そのためには、関係性と成果、行動と戦略をつなぐKGI/KPI設計をしっかり行うことが重要です。

まとめ

エンタープライズ営業におけるマネジメントは、従来のSMB営業とは大きく異なり、より戦略的かつ部門横断的な視点が求められます。

属人的な営業活動から脱却し、顧客との関係性・個別案件・さまざまな活動を「見える化」しながら、質の高い営業組織を育てていくことが、継続的な成長の鍵となります。

このレッスンを参考に、自社に合った営業マネジメントの仕組みづくりを検討し、現場の行動と成果をつなげるマネジメントスタイルを構築していきましょう。

次のレッスンからは、これまで解説してきたエンタープライズ営業の仕組みをCRM/SFAツールを活用して構築する実践的な内容をお伝えしていきます。