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カスタマイズの前提シナリオ
本レッスンでは、「さまざまな規模の企業に教育・研修サービスを提供する企業(C社)」での利用を例に、Zoho CRM のCRM/SFA機能のカスタマイズ手順を解説していきます。前提条件や具体的なカスタマイズ手順を参考に、自社のビジネスモデルや実際の営業活動に合ったカスタマイズを行ってください。
最初から最適な環境を作ることができればベストですが、まずはカスタマイズは最小限に抑えた上で活用することをお勧めします。
企業のプロフィール
C社は、企業から社員教育や採用イベントの実施、企業文化変革に関する相談を受けて、研修企画や研修サービスの提供、採用関連のイベント企画・実施に関するサービス提供する100人規模の企業です。
これまでは主にSMB市場で中堅・中小企業向けに研修サービスを提供してきましたが、双方向性のあるワークショップ型の研修や採用イベントの成功などを経て、徐々にエンタープライズ市場の顧客が増えてきています。
これまでのスプレッドシートを使った案件管理では、中長期的な視点を持った顧客との関係性構築が難しいと考え、CRM/SFAツールを導入し、エンタープライズ営業の実施を本格的に始めることとしました。(組織図の青マークの部署で利用します)

マーケティング部は外部向けの無料セミナーや広告等による集客、見込み客へのメールでの定期的なメルマガの配信などを担当し、獲得した問い合わせの対応は営業担当者が行っています。
営業担当者は初回訪問やオンラインミーティングで顧客の見極めを行い、案件として成り立つかどうかを判断した上で、研修部に所属する講師と二人三脚で提案活動を進め、受注後の納品やリピート案件の獲得などに向けた活動を行います。
研修サービスであるため、サポート部は存在しませんが、研修後の効果測定などのフォローは営業担当者が中心となって行っています。
企業が抱える課題
C社では、以下の3つの課題を抱え、CRM/SFAツールの導入と活用による解決を行おうとしています。
- 少ない営業リソースを有効活用するためにエンタープライズ企業のターゲティングを適切に行いたい
- 属人的になりがちな顧客理解やアカウントプランの作成・進捗管理を仕組み化したい
- 中長期にわたる関係構築活動・営業活動を適切にマネジメントしたい
カスタマイズの方針
一般的なCRM/SFAツールの初期設定で用意されている基本項目は、必要最小限のものであり、エンタープライズ営業に必要な情報をカバーしきれていないと判断。標準レイアウトのまま運用すると、必要な情報が抜け落ち、結果として営業マネージメントや再現性のある営業活動の妨げになる可能性が高い。
そこで、「自社に必要な顧客管理・案件管理の視点をもとに項目を洗い出し、不要な項目は非表示にする」「情報入力の手間を最小限にしながら、質の高いデータが蓄積される設計」を実現することを方針としました。
また、アカウントプランに関する情報は、進捗状況などはCRM/SFAツール上で管理しつつ、詳細な情報はパワーポイントで作成したファイルで管理する方針としています。
顧客情報のカスタマイズ
ここからは、Zoho CRMを使って、具体的なカスタマイズを実践していきます。
まずは、Zoho CRM にデータを格納していくタブをカスタマイズして、利用できる準備を進めていきましょう。データのインポートは、次のレッスンで行っていきます。

C社がまず利用する顧客情報に関連するタブは、[取引先][連絡先][見込み客]の3つです。案件を管理するための[商談]タブや活動管理を行うためのタブについては、別途カスタマイズを行います。まずは顧客情報に関連するタブをカスタマイズして、準備していきましょう。
ターゲティング・顧客理解に必要な情報
エンタープライズ営業では、顧客の「属性情報」などをもとに戦略的なターゲティングを行う必要があります。研修サービスを提供する企業では、以下のような項目を追加して管理すると効果的です。
カスタマイズで追加する項目例
■組織に関する管理項目
- 業界(製造業/金融/流通/IT/サービス/公共など)
- 従業員数(~100/~500/~1000/~5000/5001~)
- 教育投資額(~100万円/~500万円/~1000万円/~3000万円/3001万円~)
- 教育・研修への取り組み(消極的/必要最低限/積極的/重要な戦略としての位置づけ)
- 自社との関係性(なし/単発依頼/継続依頼/パートナー)
- 教育・人事課題(なし/採用/離職率/高齢者雇用/新人教育/中堅教育/管理職教育/ダイバーシティ/ハラスメント/キャリアプラン/組織文化/その他)
- 競合状況(研修子会社あり/継続的な取引企業あり/内製化指向あり/各部門が必要に応じて調達/その他)
- アカウントプランの進捗状況(なし/プラン作成中/プラン実施中/プラン見直し)
- アカウントプラン(ファイル添付)
■個人の連絡先に関する管理項目
- 役職ランク(経営層/マネジメント層/現場層)
- 部門カテゴリ(経営企画/人事・教育/現場)
- 個人の課題感(なし/採用/離職率/高齢者雇用/新人教育/中堅教育/管理職教育/ダイバーシティ/ハラスメント/キャリアプラン/組織文化)
- 自社への態度(消極的/中立/積極的/推奨)
上記はあくまで参考例です。また最初からすべての項目をCRM/SFAツール上で管理しようとするとメンテナンスに手間がかかることとなるため、アカウントプラン内で管理すべき情報とツール上で管理すべき情報などを切り分けてカスタマイズを行うとよいでしょう。
取引先タブのカスタマイズ手順
まず最初にカスタマイズを行うのは[取引先]タブです。
[取引先]タブは、顧客企業の組織に関わる情報を入力するタブです。法人に対するビジネスを行っている場合には必須の情報といえます。[連絡先]や[商談]ともひも付き、先に取引先情報を用意しておくことで、他のタブの情報とのひも付けが容易となるため、最初にカスタマイズしておきます。
実際にカスタマイズするタブを選択しましょう。[設定]の[タブと項目]から[タブ]を選択します。

表示されたタブの名称の中から[取引先]をクリックします。

続いて、[標準]レイアウトをクリックしてカスタマイズ画面に移動します。
レイアウトはビジネスモデルに合わせて複数設定可能ですが、まずは最初から用意されている標準タブを利用します。
画面左側には設置できる項目のオプションが表示され、右側には現在設定されている実際のタブのレイアウト(項目の配置)が表示されています。

ここから不要な項目を削除したり、設定可能な項目から新しい項目を選んで追加していくなどのカスタマイズを行います。
今回は、[業界][取引先の種類]の選択肢の編集、[従業員数(選択項目)]などのターゲティングに必要な項目の追加、不要な項目の削除などを行っていきます。
一通りのカスタマイズ手順は、以下の動画を参考としてください。

動画のカスタマイズを行った後の[取引先]のデータ登録画面は以下のような形となります。

連絡先タブのカスタマイズ手順
次にカスタマイズを行うのは[連絡先]タブです。
[連絡先]タブは、顧客企業の担当者や意思決定者などの個人に関わる情報を入力するタブです。[取引先]や[商談]ともひも付き、具体的な営業活動を行う対象であり、メールのやり取りも含めてさまざまな情報の起点となる重要な情報です。
取引先と同じように[設定]の[タブと項目]から[タブ]を選択し、表示されたタブの名称の中から[連絡先]をクリックし、続いて、[標準]レイアウトをクリックしてカスタマイズ画面に移動します。
今回は、[従業員数(選択項目)][役職ランク][部門カテゴリ][個人の課題感][自社への態度]などのターゲティングに必要な項目の追加、不要な項目の削除などを行っていきます。
一通りのカスタマイズ手順は、以下の動画を参考としてください。

動画のカスタマイズを行った後の[連絡先]のデータ登録画面は以下のような形となります。

見込み客のカスタマイズ手順
次にスタマイズを行うのは[見込み客]タブです。
[見込み客]タブは、[連絡先]と同じように顧客企業の担当者などの個人に関わる情報を入力するタブです。[連絡先]タブとの違いは、まだ取引がなかったり、展示会などで名刺情報は入手したが、顧客になる可能性がどの程度あるかもわからない個人の連絡先のような、「見込みがあるかもしれない顧客候補」という位置づけです。一般的にはリードと呼ばれることもあります。
[見込み客]タブの管理項目としては、[連絡先][取引先]のそれぞれのタブの項目が集約されたような形になります。
なお、日本企業においては、顧客マスタやリストを「連絡先」(商談開始もしくは既存顧客)と「見込み客」で分けずに管理していることも一般的であり、自社でどのような顧客管理を行うかを決めてから[見込み客]タブのカスタマイズを行いましょう。
また、既存顧客とその商談の管理からSFAツールの活用を始めるような場合には、見込み客のカスタマイズは飛ばして、商談のカスタマイズに進んでも問題ありません。
[連絡先]や[取引先]と同じように設定メニューの[タブと項目]から[タブ]を選択し、表示されたタブの名称の中から[見込み客]をクリックし、続いて、[標準]レイアウトをクリックしてカスタマイズ画面に移動します。
今回は、[役職ランク][教育・人事課題][競合状況][部門カテゴリ][個人の課題感][自社への態度]などのターゲティングに必要な項目の追加、不要な項目の削除などを行っていきます。
さらに、[見込み客]から[連絡先][取引先]に項目を引き継ぐための設定も同時に行います。
一通りのカスタマイズ手順は、以下の動画を参考としてください。

動画のカスタマイズを行った後の[見込み客]のデータ登録画面は以下のような形となります。


営業マネジメントのためのカスタマイズ
エンタープライズ営業では、個別の案件の進捗状況の管理だけでなく、アカウントプランの進捗や中長期の活動における個別案件の位置づけ、取引先やキーマンに対する活動状況などを意識しながらマネジメントを行っていく必要があります。
特に、顧客開拓や信頼関係構築、顧客深堀や横展開の模索など、具体的な案件がない状態でも活動することが多いため、活動の記録方法を工夫する必要があるのが留意すべきポイントです。

C社が営業マネジメントを行う上で関連するタブは、カスタマイズ済みの3つのタブに加えて、[商談][予定][タスク][通話]の4つです。今回は、[商談][予定]の2つのタブのカスタマイズを行います。
営業マネジメントに必要な情報
C社のような研修サービスを提供する企業では、以下のような項目を追加して管理すると効果的です。
■商談に関する管理項目
- ステージ(条件確認/ニーズの分析/提案/意思決定/見積もりの提示/交渉/受注/納品/フォロー/失注/競合選択による失注)
- 商談の位置づけ(情報収集/初回取引/信頼関係構築/他部門展開/全社展開/グループ展開)
- 解決課題(なし/採用/離職率/高齢者雇用/新人教育/中堅教育/管理職教育/ダイバーシティ/ハラスメント/キャリアプラン/組織文化)
■活動に関する管理項目
- 活動目的(情報収集/初回取引/信頼関係構築/他部門展開/全社展開/グループ展開)
- 活動時の商談ステージ(条件確認/ニーズの分析/提案/意思決定/見積もりの提示/交渉/受注/納品/フォロー/失注/競合選択による失注)
[商談の位置づけ]と[活動目的]は同じ選択肢を設定しています。各選択肢は、アカウントプランにおけるステージ(段階)を表しており、情報収集から初回取引を経て、最終的には企業グループ全体へのサービス提供までを視野に入れています。
営業戦略に応じて、どの段階の顧客への活動に注力するかが決まっていれば、上記の項目をカスタマイズで設定することで、戦略に沿った活動を行えているのかをマネジメント可能となります。
具体的なマネジメントの考え方などについては、別のレッスンで学んでていきます。
取引先のカスタマイズ手順
すでにカスタマイズを行った[取引先]ですが、追加で[取引先ステージ]項目を追加し、他のタブでも利用できる共通選択リストとして設定します。
一通りのカスタマイズ手順は、以下の動画を参考としてください。

動画のカスタマイズを行った後の[取引先]のデータ登録画面は以下のような形となります。

商談のカスタマイズ手順
[商談]タブは、商談に関わる情報を入力するタブであり、商談の受注予想金額である[総額]や受注予測日である[完了予定日]、進捗状況を管理するための[ステージ]など、商談管理を行うための基本的な項目が最初から設定されています。
[取引先]タブや[連絡先]タブとひも付き、後ほど設定を行う[予定]タブなどの活動管理を行う情報とも関わりが深いので、しっかりと理解してから活用を始めましょう。
今回は、[ステージ]の選択肢の追加、[商談の位置づけ][解決課題]などの営業マネジメントに必要な項目の追加などを行っていきます。
一通りのカスタマイズ手順は、以下の動画を参考としてください。

動画のカスタマイズを行った後の[商談]のデータ登録画面は以下のような形となります。

予定のカスタマイズ手順
Zoho CRM では[予定][タスク][通話]の3つのタブで活動状況を管理し、各活動状況は、[取引先][連絡先][見込み客][商談]などの各タブとひも付けることが可能です。
それぞれのタブの位置付けは以下の通りです。
[予定]タブ:顧客との打ち合わせや提案などの予定(スケジュール)を入力
[タスク]タブ:商談を進めるための準備などの実施するべきタスクに関する情報を入力
[通話]タブ:顧客とのコミュニケーション履歴である通話に関する情報を入力
[予定]と[タスク]については、切り分けが少し難しい部分がありますが、予定はカレンダーなどで管理する開始時間と終了時間が決まっているもの、タスクは担当者が作業を行わない限り、予定終了日を迎えても終了扱いにならないもの、と考えてみてください。また、活動内容が把握できればよいので、どちらに登録すべきかを考え過ぎたり、正確さを追及しても精度は変わりませんので、ある程度の割り切りも必要です。
今回は[予定]タブのカスタマイズを行っていきますが、同様のカスタマイズを他のタブに設定することで、何を目的とした活動をどのくらい行っているのかの全体像を把握することができるようになります。
[予定]タブのカスタマイズでは、[活動目的]の追加を行っていきます。
一通りのカスタマイズ手順は、以下の動画を参考としてください。

動画のカスタマイズを行った後の[予定]のデータ登録画面は以下のような形となります。

まとめ
エンタープライズ営業では、営業活動が長期化・多層化し、情報の粒度と構造に対する要求が非常に高くなります。CRM/SFAツールを有効に活用するためには、画一的な初期設定では不十分であり、自社の営業戦略・プロセスに即したカスタマイズが欠かせません。
本レッスンで紹介した「取引先」「連絡先」「見込み客」「商談」「予定」などのカスタマイズは、CRM/SFAツール導入の初期段階で整備すべき基幹部分ですが、最初から時間を掛けすぎずに、必要最低限のカスタマイズを行って、徐々に改善していく進め方がお勧めです。
次回以降のレッスンでは、これらのカスタマイズされたデータをどのように活用し、顧客のターゲティングや営業マネジメントに活かしていくかを具体的に解説していきます。