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中小企業における営業とマーケティング連携の主な課題
営業とマーケティングが密に連携しているつもりでも、実際にはリードが放置されていたり、引き継ぎのタイミングがずれていたりと、想定通りに連携が機能していないケースが多く見られます。
背景には、少人数ゆえの兼任体制や役割の曖昧さがあり、「話せば伝わる」という感覚的なコミュニケーションが常態化しやすいことが挙げられます。
また、情報共有のルールが明文化されていない、トスアップの基準が統一されていない、営業への引き渡し後の状況が追えないといった構造的な問題も複合的に存在します。ここでは、中小企業における営業とマーケティング連携の主な課題を整理し、どこで何がすれ違いやすいのかを明らかにします。
情報管理が属人化し、共有されない
中小企業では、営業やマーケティング業務が少人数体制で運用されていることが多く、リード情報や顧客対応の履歴が個人に依存しがちです。例えば、ある営業担当が取得した名刺情報が個人のExcelファイルで管理され、チーム内で共有されていない、あるいは問い合わせ対応の記録がメールや口頭にとどまり、他の担当者が状況を把握できない、といったケースが挙げられます。
このような状態では属人化が進み、誰がどのリードと接触しているのか、商談が進んでいるのか、放置されているのか、情報の確認ができなくなります。その結果、同じ相手に複数の担当がアプローチしてしまったり、逆に誰もフォローしていなかったりと、非効率や機会損失につながりかねません。
営業担当者同士で顧客対応を引き継ぐ際に、記録が残っていないと「前に話した内容を把握していなかった」という事態になり、顧客から信頼を損ねることもあるでしょう。こうした抜け漏れを防ぐためにも、情報の記録・共有を担当者任せにせず、営業部門全体で一元的に管理できる仕組みを整えておくことが重要です。
リードの評価の基準が統一されていない
マーケティングと営業の間で「良いリード」の定義が異なると、獲得したリードをうまく活用できず、連携にすれ違いが生じやすくなります。マーケティング側は「フォームから問い合わせがあった」「ウェビナーに参加した」といった行動からホットリードと判断する一方で、営業側は「資料を請求しただけでは意欲が高いとは言えない」と考えるなど、判断基準にずれがあるのはよくある話です。
このギャップは、営業がトスアップされたリードに対応しない、または対応を後回しにしてしまう原因になり、マーケティング側の「営業が動いてくれない」という不満にもつながります。
そもそも「見込みがある・ない」といった判断基準が部門間で共有されていなければ、目線が揃わず、連携の質も安定しません。引き渡しをスムーズに機能させるには、判断基準を明確化し、部門間で共通理解を持つことが不可欠です。
「誰が・いつ・何を渡すか」が決まっていない
中小企業では、営業・マーケティング間での役割分担やプロセス設計が未整備なまま、暗黙のうちに業務を進めてしまうケースが多く見られます。その結果、「誰がどのタイミングで、どのような情報を営業に渡すのか」が決まっておらず、引き渡しのミスや抜け漏れが発生します。
例えば、マーケティング部門がウェビナー参加者リストを作成したものの、営業への引き渡しタイミングが決まっておらず、1週間以上放置されたままになってしまうといったケースがあります。タイミングが遅れることで、せっかく関心を持ったリードも温度感が下がり、成果につながらなくなります。
また、営業側から「どの段階で渡されたリードなのか分からない」といった不満が出ることもあります。リストに最新のヒアリング内容が追記されていないまま渡され、営業がまた一から聞き直さざるを得ない、といった事態も起こりやすいです。
トスアップは、責任を持って渡すことが重要です。そのためには、「いつ渡すのか」「どの情報を、どの形式で渡すのか」「どの手段で通知するのか」「誰が責任を持って引き渡すのか」といった要素を、あらかじめ明確に定義しておく必要があります。
営業引き渡し後のフォロー状況が追えない
リードを営業に渡した後、その後どうなったのかをマーケティング側が把握できない状態は、連携上の大きな課題です。営業部門での対応状況や進捗が共有されなければ、そのリードが商談につながったのか、失注したのか、あるいは反応がなかったのかといった状況が把握できず、次の打ち手を検討することが難しくなります。
「営業に渡した後、何も反応がない」「商談になったかどうかがわからない」という状態では、施策の質の向上も見込めません。また、営業側にとっても、過去の引き渡し履歴や対応状況が見えないことで、アプローチの優先順位を正しく判断できなくなります。
トスアップは受け渡して終わりではなく、引き渡し後の進捗の追跡・情報の共有を含めて完結するプロセスです。その後の動きや成果が把握できる仕組みを整えることで、施策の振り返りや改善に役立ち、部門間の信頼構築にもつながります。
中小企業でも実践可能な営業トスアップの仕組み
中小企業では、営業とマーケティングの人数が限られ、役割分担やプロセス整備が不十分なまま進められることが多く、トスアップ体制の構築が難しいと感じられることがあります。しかし、実際には、高機能なシステムや専任部門がなくても、身近なツールや情報を活用し、ルールとフローを明確にするだけで、効果的なトスアップ体制をつくることは可能です。
ここでは、既存のリード情報の棚卸しから始め、Excelなどを使ったスコアリング、ルールの策定、フィードバック体制の整備まで、段階的に取り組めるトスアップ体制のつくり方を見ていきます。
既存のリード情報を棚卸し・整理する
中小企業では、営業とマーケティングの人数が限られていることも多く、営業活動の情報が担当者任せになりがちです。そのため、どのリードにどこまで対応したのかがわからなくなり、せっかくの見込み客が放置されるなど、成果につながらない事態が起こりやすくなります。
こうした状況を改善するためには、まず手元にあるリード情報を整理し、「誰が・どのリードを・どこまで対応したか」を可視化する仕組みが不可欠です。
Excelや名刺管理ツール、問い合わせフォーム、イベント参加者リストなど、複数の経路で集まってきたリードが社内のどこに、どんな形式で存在しているのかを棚卸ししていきましょう。
この時、情報が分散していたり、同じ会社の担当者が重複して登録されていたりすることがよくあります。まずはすべての情報を一覧にまとめ、リードごとに「企業名」「担当者名」「連絡先」「獲得経路」「接触履歴」「対応状況」な、最低限の項目を整理することが重要です。
この整理ができていないと、後から「リードの優先度を決めるスコアリング」や「引き渡しのルール設計」といった仕組みを整えようとしても、正確な情報を基にした判断ができなくなります。後工程の精度を高めるためにも、情報の棚卸しは地味ながらも極めて重要なステップです。
Excelを活用した簡易スコアリングの導入
トスアップの仕組みをつくるうえで重要なのが、リードをどの順番で営業に引き渡すかの優先順位づけです。中小企業の現場では、営業担当者が少人数で幅広い業務を担っていることも多く、すべてのリードに等しく時間をかけるのは現実的ではなく、どのリードがより商談化しやすいかを見極める必要があります。そこで役立つのが、リードを客観的な基準で評価するスコアリングという仕組みです。
CRM/SFAツールを活用すれば、リード情報を一元管理し、その情報をもとにスコアリングを自動化し、営業が優先的に対応すべきリードを把握できるようになりますが、現実には多くの中小企業では、こうしたツールをまだ導入していないというケースも多いでしょう。ツールの導入が進んでいない中でも、手元にあるExcelやGoogleスプレッドシートを活用することで、簡易的なスコアリングを始めることができます。
スコアリング基準の設計
スコアリングを始めるにあたって重要なのが「どんな情報をもとに、どんな基準で評価するか」を決めることです。まずは、リードの基本情報である「属性」と、実際の行動履歴である「行動」を組み合わせた評価項目を用意し、スコアを合計する方式から始めると良いでしょう。
スコアリングを始める際には、どのように評価項目を設定し、実際に点数を振り分けるかがポイントになります。下記は、リードの基本情報である「属性」と、実際の行動履歴である「行動」を基にした例です。
スコアリングの設計例:
項目 | 内容 | 配点例 |
会社規模 | 従業員数50名以上 | +5点 |
業種 | ターゲット業界に該当 | +5点 |
担当者役職 | 部長クラス以上 | +10点 |
過去の行動 | 資料ダウンロード | +10点 |
イベント参加 | ウェビナー参加済み | +15点 |
Web行動 | サイト訪問2回以上 | +5点 |
スコアが例えば、「30点以上ならトスアップ対象」といった基準を設ければ、営業が優先すべきリードが一目でわかります。さらに、スコアを単純な数値だけでなく、「高・中・低」などのラベルに分類したり、「今すぐ対応」「将来性あり」「経過観察」といったステータスをラベルとして付けると、さらに運用しやすくなります。
なお、スコアリングの項目や配点は、業種や商材によって微調整が必要です。業種ごとに「どの情報を重視するか」が異なるため、自社の業種や営業スタイルに合わせてカスタマイズしましょう。
Excelやスプレッドシートを使ったスコアリングシート例
スコアリングの項目や配点を決めたあとは、実際にスコアを計算し、優先リードを可視化する仕組みをつくります。ここでは、ExcelやGoogleスプレッドシートを使ったシンプルなスコアリング管理の例を紹介します。
サンプルのテンプレートはこちらからダウンロード可能です。自社に合わせて項目を調整しましょう。
下記のように「会社規模」「役職」「行動履歴」などの評価項目をExcelシートにまとめ、合計スコアを自動計算することで、営業が優先すべきリードを一目で把握できます。
会社名 | 担当者名 | 業種 | 従業員数 | 役職 | DL回数 | セミナー参加 | Web閲覧回数 | スコア合計 | 優先度 |
株式会社 | 田中一郎 | 製造業 | 120 | 課長 | 1 | なし | 2回以上 | 25 | 中 |
このテンプレートでは、マーケティング部門でのリード管理から、営業へのトスアップまでの一連のプロセスをシンプルに管理できます。特にCRMツールをまだ導入していない中小企業でも、こうしたシートを活用すれば「見込み管理 → 引き渡し → 商談フォロー」までを一貫して可視化・管理できるようになります。
トスアップ実行のための基本ルールの設計
リードを営業に引き渡す際には、「誰が・いつ・何を・どうやって」渡すのかを明確にしておく必要があります。特に中小企業では、少人数での運用が前提となるため、シンプルなルールを決めると良いでしょう。最低限決めておきたいのは次の4点です。
- 誰が渡すのか(例:マーケ施策担当者・インサイドセールスチーム)
- 引き渡しのタイミング(例:スコアが50点を超えたら)
- 引き渡しの内容(例:企業名、担当者名、対応履歴、スコア)
- 通知方法(例:週次のMTGで口頭共有/チャットで個別連絡)
加えて、引き渡し後に誰がそのリードを受け取り、対応を開始するのか(例:エリア担当営業、営業マネージャーなど)も明確にしておくと、営業側の混乱を防げます。
情報を渡す際には、必要な項目が一目でわかるテンプレート形式にしておくと、情報の抜け漏れを防ぎつつ、営業側もスムーズに優先順位を判断できます。
例えば、先ほどのテンプレートの「営業見込み客」シートを使えば、スコアや担当者情報など、引き渡しに必要な情報を一元的に管理できます。このシートは「見込み管理 → 引き渡し → 商談フォロー」までの流れをシンプルに可視化しており、営業との連携をスムーズにするのに最適です。自社の業務フローに合わせて、列の追加や項目名の調整など、必要に応じてカスタマイズしながら活用してみてください。
営業からのフィードバックを得る仕組みの構築
営業に引き渡したリードが、その後どうなったのかをマーケティング側が把握できない状況は、営業連携において大きな課題です。営業からのフィードバックがないと、どの施策が商談化につながったのか分からず、今後の改善や効果測定ができません。
中小企業では、専任の分析担当や仕組み化されたシステムがないことも多いため、まずは「最低限の情報だけでも可視化する」ことと良いでしょう。
例えば、営業へのトスアップリストに以下のような簡易的な記録欄を設けるだけでも、情報共有の質は格段に向上します。
対応状況 | 結果 | コメント(任意) |
アポ取得済み | 商談化 | 競合とも比較中だが導入検討前向き/来月に再アプローチ予定 |
このような記録方式で運用する際は、営業にとって負荷の少ない運用設計を心がけることが重要です。例えば以下のような取り組みが有効です。
- 週次の10分ミーティングで「先週渡したリードの進捗」を口頭共有し、その後で記録を反映する
- チャットツール上で、引き渡しリードに対して簡単な返信コメントだけで完結する運用にする
こうしたライトな共有スタイルからスタートすると、少しずつ定着・習慣化してていきます。
営業からのフィードバックを得られるようになると、マーケティング側も「どのリードが成果につながったか」「どのチャネルからのリードが商談率が高いか」を把握でき、今後の施策改善やトスアップ基準の見直しにも役立てることが可能になります。
継続して運用できる仕組みを設計する
顧客情報やリードの引き渡しの仕組みをうまく現場に定着させて昨日させるには工夫が必要です。ここでは、スモールスタートの進め方や再現性を持たせて社内に根づかせるためのポイントを整理します。
運用が形骸化するリスクを取り除く
営業トスアップの仕組みを導入しても、運用が継続しないケースは少なくありません。特に中小企業では、少人数・兼任体制の中で日々の業務が優先され、記録や連携が後回しになりがちです。その結果、トスアップリストが更新されない、営業からのフィードバックが得られない、といった状況が発生し、仕組みが形だけのものになってしまいます。このような事態を防ぐためには、「なぜ続かなくなるのか」という構造的な背景を理解した上で、現場の負担を抑えつつ、必要最低限のルールを明確にすることが重要です。
よくある運用停止の原因とその背景
運用が形骸化する原因には、以下のようなパターンが挙げられます。
- 記録項目が多すぎる
→ 入力作業が煩雑になり、忙しい時に後回しにされる - 成果との結びつきが見えない
→ 入力しても誰かに見られていない、活用されていないという無力感 - 属人化して一部の人しか使っていない
→ 特定の担当者だけが運用し、他メンバーにノウハウが浸透しない - 「誰が・いつやるか」が曖昧
→ 実施のタイミングや責任者が不明確なまま自然消滅する
まず「これだけはやる」という最低限ルールの決め方
営業トスアップの運用を定着させるには、まず最小限の負荷で、確実に回る仕組みをつくることが重要です。現場の運用が止まる要因には、「手間がかかる」「使われない」「責任が不明確」といった背景があるため、それぞれに対して実効性のあるルール設計が求められます。以下は、よくある課題に対応した最低限ルールの例です。
- 入力項目は4〜5項目以内に絞る
項目が多すぎると入力が後回しになるため、まずは、「担当者名」「対応ステータス(例:アポ取得/未対応)」「結果(商談化/失注)」「次回アクション予定」などに実行に必要な項目だけに絞ると良いでしょう。 - 共有タイミングと活用の場を固定する
入力された情報がチーム内で「使われている」と継続につながら原動力にもなるため、なります毎週月曜のミーティングで「先週渡したリードの対応状況」を5分で確認したり、フォーマット上に対応状況欄を設け、口頭共有+後から記録でOKという運用にすると良いです。 - 誰でも使えるテンプレートと共有フォルダを用意する
運用が特定の担当者に偏ると、他メンバーが使いづらくなり形骸化しやすくなります。全員がアクセスできる共有フォルダ上で管理を行い、テンプレート形式のシートで「どこに・何を記入すればよいか」が明確な状態を作ると良いでしょう。 - 役割とタイミングをあらかじめ決めておく
「誰が・いつ入力・共有するか」が曖昧なままだと、日々の業務に埋もれて運用が止まりがちです。たとえば「マーケティング担当が毎週水曜に引き渡しリストを更新し、営業担当が金曜までに対応状況を記入する」といったスケジュールを事前に決めておくことで、運用の流れが定着しやすくなります。シンプルなカレンダーやチーム内のToDoリマインドもあわせて活用すると効果的です。
上記3点は、リード共有やフィードバック運用を習慣化する上で必要な視点であり、た、チーム内で共通認識を持てる最低限の行動でもあります。まずはこの最低限ルールを短期間で試してみた上で、実際に動かして次のステップへと進めてみましょう。
トスアッププロセスの標準化とドキュメント化
引き渡しや、双方部門でフィードバックを行う運用をルールとして定着させていくためには、「誰がやっても同じように運用できる状態」を目指す必要があります。そのための大事な要素が、ルールや運用フローのドキュメント化です。
属人的に運用されている仕組みは、一見スムーズに見えても、担当者が異動・退職した途端に機能しなくなる恐れがありますので、どのようにリードを評価・共有し、フィードバックを得ていくか、までの一連の流れを文書や共有シート、社内マニュアルとして残しておくことで、運用の再現性が高まります。
次のような情報をまとめておくとよいでしょう。
- トスアップの判断基準(スコアリングの基準)
- 各部門での情報共有の頻度と使用するフォーマットの記述
- 営業が入力すべき記録のルール
- 振り返りのタイミングと内容
これらを社内の共有ドライブなどにまとめておくことで、担当変更や新メンバー追加時にもすぐにキャッチアップでき、スムーズな引き継ぎが可能になります。また、将来的にCRM/SFAツールを導入する際にも、このドキュメントがあることでどんな運用設計をすればいいかが明確になり、導入・移行がスピーディに進めやすくなります。
進捗状況の確認と継続的に改善する仕組みを整える
運用の仕組みは、実際に運用してみる中で、状況や成果に応じて定期的に見直し・改善を重ねることが不可欠です。そのためには、月次や四半期ごとのタイミングで、運用実績を振り返る場を設けましょう。
例えば、以下のような項目を簡易ダッシュボードやレポートで確認します。
- トスアップ数と商談化率の推移
- 営業への引き渡し後の対応スピード
- スコアリングと実際の成果(受注・失注)の相関性
- 営業側からのフィードバック件数と内容
こうした振り返りを通じて、「「どの条件で渡せば成果につながるか」「今の運用で改善すべき点はどこか」を議論し、配点ルールや共有方法などを都度見直していくことが重要です。