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トスアップ基準は「一律」ではない
どのリードを営業に渡すのか、というトスアップ基準はどの企業にも一律して共通する判断ではなく、企業規模や営業体制、マーケ施策の成熟度によって最適な基準は大きく変わります。特に中小企業と大企業とでは、保有するリード数やフォローできる営業リソース、導入しているツール環境がまったく異なるため、 同じ基準を適用しても、精度・効率・成果のどれかが損なわれてしまう恐れがあります。
ここでは、「なぜトスアップ基準は一律にできないのか」、そして規模や体制に応じて判断軸がどう変わるべきかを整理します。
営業体制・リード数・ツール環境に応じて最適化が異なる
トスアップ基準は、「どれくらいの量のリードを、どれだけの営業リソースで処理できるか」、そして「どれだけの情報が整理されているか」によって最適解が大きく変わります。例えば、中小企業では、リードの数も限られており、営業担当が少人数で幅広い役割を担っているケースが多く見られます。こうした状況では、「トスアップの精度」よりも「スピード」や「柔軟性」が重視されやすく、基準はシンプルかつ属人的なものになることが多いです。
一方で大企業になると、月に数千件以上のリードが発生し、営業部隊も分業化されています。ここでは、スコアリングによる精緻な仕分けや、明確な判断フローの設計が求められます。加えて、MAやCRMに情報が十分に蓄積されている前提で判断ロジックが組まれるため、「どの情報が使えるか」も設計に影響します。
つまり、「どんな営業体制か(カバーできる量)」「どれくらいのリードがあるか(処理すべき量)」「どれだけ情報が整っているか(使える判断材料)」という3点を踏まえて、無理のないトスアップ基準を作ることが重要になります。
- 規模別に見る営業体制・リード数・ツール環境の違い
観点 | 小規模・中小企業 | 大規模・大手企業 |
営業体制の規模 | 営業数名でリード全件を確認可能。どれを渡すかより「どんなリードかの把握」が優先され、現場の柔軟判断が重視される。 | 営業が全リードを見るのは不可能。ISや営業企画がスコア等で優先度をつけ、(半)自動で割り振る必要がある。 |
リード獲得数 | 月10件前後のため、営業が1件ずつ状況に応じた対応が可能。基準よりも対応相談に近い。 | 月500件以上。スコア・条件で機械的に振り分けないと現場が回らない。 |
ツール環境の整備度合い | MAツール未導入の場合が多く、行動履歴・属性情報が不足し定量基準が作りにくい。 | MAツール導入でデータ・スコア活用が可能。トスアップ基準も定量的・ルールベースで設計可能。 |
「見込みあり」の判断を誰がどの基準で行うのか
トスアップの基準は、「誰がそのリードを見込みあるかと判断するのか」によって大きく変わります。判断主体が異なれば、重視する情報や基準の粒度、必要な確認プロセスも自ずと変わります。
例えば、中小企業ではマーケティング担当者や営業担当者自身が、限られたリードの中から感覚や直感を交えて「見込みありかどうか」をその場で判断するケースが多く見られます。ここでは、詳細なスコアリングよりも、担当者の経験値や状況判断が重視されます。
一方、中堅企業では、インサイドセールス(IS)がマーケティングからのリードを一度受け取り、属性情報や行動履歴、ヒアリング結果をもとに営業へ渡すべきかを仕分けする体制が一般的です。この場合、スコアやヒアリング内容といった定量と定性情報を組み合わせた判断が行われます。
大企業になると、MAツールやCRMツールで蓄積されたデータをもとに、自動スコアリングで一定の基準を超えたリードが営業に引き渡される仕組みが整備されていることが多いです。さらに、営業企画やインサイドセールスが介在し、例外的な判断や重点ターゲットの確認するなど、自動、かつ人手の多段階の判定が行われます。
つまり、「見込みあり」の判断基準は、単なるスコアの数値や条件だけでなく、誰が判断するかによって必要とされる情報の質や深さ、確認のプロセスが変わります。
- 判断主体と判断の拠り所となる情報
判断主体 | 使用する基準・データ | 特徴 |
マーケティング・営業本人(中小企業) | 経験値、感覚、現場状況 | スピード・柔軟性重視、基準はシンプルで属人的になりやすい |
インサイドセールス(中堅企業) | 行動スコア、属性情報、ヒアリング内容 | 定量+定性の組み合わせで判定、一定の再現性が求められる |
MAツール+IS+営業企画(大企業) | 行動スコア、属性スコア、CRM属性・例外情報 | 自動化+例外管理、複数段階で判定、ルールと柔軟性の両立が重要 |
企業規模別に見る判断基準と設計の違い
前述したように、誰がどのデータを基にしてトスアップをするのかは異なります。これらの違いを踏まえた上で、企業ごとにどのようなトスアップ設計を行うと良いのか、企業の組織規模に合ったトスアップの設計方法を見ていきます。
中小企業
中小企業の場合、リードの数そのものが多くないことが多いです。そのため、営業やマーケティングの担当者は限られた人員で幅広い役割を担っていることが多く、トスアップの基準はできるだけシンプルで、すぐに現場で使える実践的なものが良いでしょう。特に、営業チャンスを取りこぼさないことが優先されるため、基準は「必要最小限の確認ポイント」を明確にしておく必要があります。具体的には、以下のような項目を確認の軸とするのが現実的です。
- 会社規模(従業員数・年商など)
自社の想定ターゲットとなるゾーンにリード企業が入っているかどうかを見極める、最初の基礎情報です。規模感が大きくずれている場合は、商談化の可能性が低いことも多いため、最初に確認したい項目です。 - 担当者の役職や立場
リードの相手がどのような役職にあるのか、決裁にどの程度関与できる立場なのかを把握することで、その後のアプローチの優先順位や進め方を考える材料になります。現場担当者なのか、意思決定層なのかは、大きな判断基準のひとつです。 - 直近の行動履歴
資料請求、セミナーやウェビナーへの参加、ウェブサイトでの特定ページの閲覧など、リードがどの程度自社に興味を示しているかを測るヒントになります。関心の高さを示す行動があるかを確認しましょう。 - 問い合わせ内容やヒアリングメモ(あれば)
問い合わせ時の内容や、初回接触時に得られたヒアリング情報があれば、それは見込み度を見極める上で重要な手がかりになります。ニーズの具体性、予算感、導入時期の目安などがわかると、商談化への期待値が判断しやすくなります。
シンプルな判断フローの例
中小企業の場合、判断基準はできるだけ簡潔で、迷わずに使えるフローにするのが現実的です。以下のような基準を組み合わせて「トスアップ対象」とする例が考えられます。
例)トスアップ対象の条件
- 従業員50名以上
- 部長職以上の担当者
- 過去30日以内に資料請求やイベント参加など、2つ以上のアクションがあった
これらの条件を満たすリードを営業に引き渡し、それ以外のリードはナーチャリングのメールフォローや、次の機会に向けた情報提供に回すという流れです。このような基準であれば、複雑なスコアリングやシステム的な判定を使わなくても、営業やマーケティングの担当者が現場で判断しやすくなります。
現場裁量と再現性のバランス
中小企業のトスアップ基準を作る上で特に重要なのは、営業機会を無駄にしない柔軟さと、一定の再現性のバランスを取ることです。基準を厳密にしすぎると、せっかくのリードが「基準に届かないから」と機会を逃してしまう恐れがあります。一方で、すべてを担当者の感覚任せにすると、人によって判断にブレが出て、組織としての再現性が失われます。
そこで意識したいのは、「判断材料を明文化すること」 です。「この条件を満たしたリードは、まずアプローチを試みてよい」といったガイドラインを簡潔に示し、どの担当者が見ても同じ基準で優先度をつけられる状態にします。これは厳格なマニュアル化ではなく、判断の軸を揃えるための共有ルールという位置づけです。このような考え方が、中小企業における実務に即したトスアップ基準作りの土台になります。
中堅企業
中堅企業では、マーケティングと営業の間にインサイドセールスが入り、リードの選別や初期対応を担うことが多くなります。マーケティングから渡されたリードをインサイドセールスが一度受け取り、「営業が対応すべきかどうか」を仕分ける役割を果たします。このとき、次の3つの情報をもとに判断するのが一般的です。
- 行動履歴
メールの開封率、リンクのクリック、資料ダウンロード、ウェビナー参加といったリードの行動データです。これらは「どのくらい関心が高いのか」を測る指標になります。行動量や質によって、温度感の高低を見極める材料になります。 - 属性情報
業種、従業員数、売上規模、部門名、役職といった、リードの会社や担当者の情報です。この情報で、自社のターゲット条件に合致しているか、戦略的に重要な相手かを確認します。 - インサイドセールスによるヒアリング情報
インサイドセールスが初期接触の中で収集する、リードの具体的なニーズや状況です。例えば、「導入時期は3か月以内か」「決裁者は誰か」「検討中の課題は何か」など、営業が次のステップに進めるための重要な情報になります。
これらの情報を組み合わせることで、単なるスコアだけでは測れない「営業対応の価値があるリードかどうか」を判断します。
定量・定性の二段階判定例
中堅企業では、インサイドセールスが行動履歴や属性情報といった定量データ に加え、ヒアリングで得た定性情報 を合わせて、二段階でリードの判断を行うのが一般的です。例えば次のような判定例があります。
例1:標準パターン
- 行動スコアが一定以上(例:100点以上)
- インサイドセールスヒアリングで「導入時期が3か月以内」「決裁者確認済み」
→ 営業にトスアップ
例2:例外パターン
- 行動スコアは基準未満でも
- ヒアリングで「明確な課題意識があり、決裁関与者が確認できた」
→ 営業にトスアップ
例3:ナーチャリング対象
- 行動スコアが低く、検討時期も未定
→ 営業には渡さず、メールやコンテンツでフォロー
このように、スコアとヒアリング結果の両方を見て、営業リソースの無駄を防ぎつつ、機会損失も起きないようにすると良いでしょう。
インサイドセールスと営業の連携で抑えるべきポイント
インサイドセールスと営業の連携をスムーズにし、トスアップの精度を高めるには、基準や引き継ぎルールを明確にし、属人的な判断の偏りを防ぐ仕組みづくりが必要です。
そのためにはまず、ISが確認すべき基準やヒアリング項目をスプレッドシートやCRMでテンプレート化し、誰が対応しても同じ目線で判断できる状態にしておくことが重要です。
さらに、営業への引き渡し時には、判断理由や過去の接点、キーパーソン、導入背景といった情報を一元化し、テンプレート化した形で共有します。こうすることで、営業が引き継いだリードの背景をすぐに把握でき、次のアクションに移りやすくなります。
運用をさらにブラッシュアップするには、営業からのフィードバックを定期的に集め、基準の改善につなげる仕組みも重要です。「トスアップしたが温度感が低かった」「決裁者に届かなかった」といった現場の声を毎月振り返ることで、ヒアリング内容や判断基準を実態に合わせて見直せます。
また、基準を厳しくしすぎれば機会損失が発生し、逆に緩くしすぎれば営業の負担が増えてしまいます。だからこそ、精度と負担のバランスを意識した基準設計を心がける必要があります。
大企業
大企業では、リードの数が圧倒的に多く、営業やインサイドセールスの人数も多いため、全件を人の目で確認して判断するのは現実的ではありません。そのため、マーケティングオートメーション(MA)ツールやCRMを活用し、一定のルールやスコアに基づく「自動振り分け」と「例外管理」を組み合わせた基準設計が一般的です。ここでは、スケールに対応しつつ機会損失を防ぐための考え方を整理します。
自動スコアリング+例外対応の基準設計
大企業では、行動スコアと属性スコアを掛け合わせた自動スコアリングが基準設計のベースになります。例えば、次のような基準を設けることが多いです。
- 行動スコア:メール開封、リンククリック、サイト訪問ページ数、資料ダウンロード、ウェビナー参加など、リードの関心や行動の質・量を数値化します。
- 属性スコア:業種、従業員数、売上規模、役職、部門、地域、既存顧客との類似性など、自社のターゲット条件との一致度を評価します。
この2つのスコアをもとに、例えば「属性スコア60点以上、行動スコア40点以上」を営業対象とし、自動的に通知します。さらに、スコアを満たさなくても、戦略的に重要な企業や重点業界であれば営業に回す例外ルールも設けることで、機会損失を防ぎます。
自動判定と例外ルールの設計例
大企業での基準設計では、ルールの自動化と柔軟な例外対応の両立が大切です。以下のような具体例が考えられます。
自動判定の例
- 属性スコア60点以上+行動スコア40点以上 → 営業に自動トスアップ
- 既存顧客の場合は、営業担当者に自動で割り当て
- 過去に失注したリードはナーチャリングリストに自動登録
例外ルールの例
- 「戦略ターゲットタグ」が付いているリードはスコア無関係にIS・営業企画に通知
- 短期集中施策期間中は閾値を一時的に引き下げ、営業対象を広げる
- 営業部門からの要望で手動トスアップを許可する枠を設ける
こうした設計により、大量リードの中から効率的に営業価値の高いものを拾い上げ、かつ柔軟に例外対応できる仕組みを作ります。
運用負荷の最小化と例外許容のポイント
ルールを自動化すれば負荷は減りますが、全自動に頼りすぎると「重要なリードを取りこぼした」「現場がなぜこのリードが来たのか理解できない」という課題が生まれます。そこで次のようなポイントが重要です。
- ルールの透明性を確保する
営業やインサイドセールスが「スコアの基準がどう作られているのか」「どの条件でリードが渡ってきているのか」を理解できるよう、説明会やドキュメントで共有します。 - ルールの可変性を持たせる
営業現場や施策の状況に応じ、スコアの閾値や条件を柔軟に調整できる体制を作ります。例えば、営業マネジメント会議で月次レビューを行い、必要に応じて条件を見直します。 - 例外ルートの設計
MAスコアだけに頼らず、特定業界や重点顧客、営業戦略上重要な企業に関しては、人の目で確認する仕組みをあらかじめフローに組み込みます。これにより、機械的な振り分けでは拾えない価値あるリードを確保します。
このように、大企業の基準設計では「運用負荷の軽減」「機会損失の防止」「現場の納得感」をバランスよく組み合わせることが成果を左右します。
実運用に落とし込むための必要なステップ
企業規模ごとに異なるトスアップ判断基準を策定した後は、現場で活用される仕組みを考えます。仕組み作りのステップは3つ、判断基準を見える化する、社内連携フローを整備する、そして、継続的な見直しを行う、です。以下に、各ステップを整理します。
ステップ①判断基準を見える化する
基準を作っても活用されない、といった事態が起きないようにするためにも、トスアップ判断の基準を、誰でも確認でき、活用できる形で明示しておくことが大事です。
スプレッドシート、CRM、MAツール上に基準やルールを定義し、インサイドセールスや営業担当が、どの情報を見て判断すべきかに迷わないようにしましょう。
CRMやMAツールにあらかじめカスタム項目を設定しておくことが有効です。
例:
- 「トスアップ対象フラグ」(はい、いいえ、一時保留、など)
- 「トスアップ理由」(行動スコアが基準以上、ヒアリングで導入意欲あり、営業からの個別依頼あり、など )
上記のような項目を追加しておくことで、誰もがトスアップ対象か否かの判断しやすく、理由が明示されていればその後のアクションも明確になります。また、MAツール上では、自動判定の条件やスコア設計のロジックを一覧で確認できるようにしておくと、営業担当者も納得感を持って対応に臨むことができ、部門間の連携がスムーズになります。
ステップ② 社内の連携フローと役割分担を定義する
次に必要なのが、部門ごとの役割とトスアップ判断のプロセスを明確な業務フローとして可視化し、組織内で共有することです。
部門ごとの役割は、営業プロセスでは主に、マーケティング、インサイドセールス、営業マネージャー、営業担当者の4部門が関わりますが、それぞれの役割内容は以下のように定義できます。
- マーケ担当者
行動スコアの一次的な確認と、条件を満たすリードの抽出を行う - インサイドセールス
スコアやヒアリング情報結果を総合的に判断し、営業へ渡すかを判断する - 営業マネージャー
トスアップを承認・優先度を設定・担当割り振りなど全体方針を統括する - 営業担当者
トスアップリードに対応し、提案を行い契約を締結させる、活動結果をインサイドセールスやマーケにフィードバックする
また、社内で誰にどのように受け渡すかの判断プロセスと連携ルールを、あらかじめ業務フローとして定めます。
- MAスコアが閾値を超えたリードは、インサイドセールスが3営業日以内に一次対応する
- 必要に応じて“商談化フラグ”を付与したうえで営業へ引き渡す
といったように、判断タイミングと対応手順を具体化しておくことで、属人化や抜け漏れを防げます。
また、フロー内で使用するツールや通知手段も事前に決めておくと良いでしょう。CRMやSFAツールでタスクを自動作成したり、チャットツールで営業へリアルタイム通知を送信する、レポート機能を使って週次で対応状況を共有するといった運用を組み込むことで、部門間の連携精度を高めることができます。
ステップ③運用後も振り返りを行い改善を必ず行う
一度決めた基準やフローは、運用しながら必ず見直しを行います。商談化率や失注理由、対応スピードなどの指標をもとに、トスアップ精度を定量的に振り返ります。
また、インサイドセールスや営業担当者からの現場フィードバックをもとに基準やルールのアップデートも行います。月次または隔月の定例ミーティングでは、個々のリード状況を確認し、アプローチした結果「なぜ温度が低かったか」や、スコア未達でも好反応だったケースなどの要因が何か、などの要因を探り、振り返ることで再現性を高めていきます。
こうした振り返りにより、スコア条件・ヒアリング設計・ナーチャリングシナリオなども随時最適化することができるため、運用の質と成果を高めることにも繋がります。
