既存顧客の深耕とアップセル・クロスセル戦略

前のレッスンでは、ルートセールスの定義や新規開拓営業との違い、ルート営業の進め方や注意点などを学びました。
本レッスンでは、ルートセールスにおける顧客・案件管理の仕組み化、特にアップセル・クロスセルによる収益の最大化について学んでいきます。
これまでExcelや紙などで管理していた顧客・案件情報を、CRM/SFAツールに置き換えることで、ルートセールスの活動がどのように変わるのか、成果の向上にどうつながるのか、そのイメージを掴んでいきましょう。
※CRM/SFAツールの例として、Zoho CRM の画面が登場します。

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既存顧客の深耕とアップセル・クロスセル戦略
目次

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ルートセールスにおける既存顧客の深耕とは?

ルートセールスにおいて既存顧客との関係性は、売上の安定化と拡大に直結します。ここで言う「既存顧客の深耕」とは、定期訪問やフォローを通じて信頼を積み重ね、単なるルーティンのやり取りにとどまらない、課題解決型の提案や商談を生み出すアプローチを意味します。

なぜ深耕営業が重要なのか?

常に新たな顧客を開拓することが必要となる営業スタイルでは、競争の激化により、顧客の獲得コストが高くなる一方で、成果を安定的に上げることが難しい状況に陥りやすくなります。

そのため、業績の安定化や向上を目指すのであれば、新規開拓ばかりにコストや労力を割くのではなく、既存顧客の中から優良顧客候補を見極め、取引を拡大できる先に重点的にアプローチを行っていくことが重要となります。

ルートセールスでは日々の業務の中で顧客とコミュニケーションを取る機会は非常に多いですが、単なるルーチンワークとして業務をこなしてしまうと、顧客からは、「毎月会っているけど、A社からは新たな提案がない」と判断されて、何か課題が発生しても相談先として頼られることはありません。

しかし、定期的な接触の中で、顧客の変化や課題を察知することができれば、取引単価や取引量を高めるチャンスがさまざまな場所に眠っているはずです。

ルートセールスにおける深耕のアドバンテージ

ルートセールスを行っている担当者や部門は、最初から顧客深耕を行いやすい環境が整っているといえるでしょう。ルートセールスが顧客深耕を行うアドバンテージとしては以下ような点が挙げられます。

  • 信頼関係をベースにした提案のしやすさ:すでに関係性ができているからこそ、課題や新製品への関心を聞き出しやすい。
  • 無理のないアップセル提案:顧客の事業フェーズや運用状況を日常的に把握しているからこそ、自然な形で上位プランや追加提案ができる。
  • 競合対策にもつながる:既存顧客を深く理解して提案できる営業は、価格以外の差別化要素になる。

ルート営業としてのアドバンテージを活かしながら、適切な顧客深耕を行っていきましょう。

既存顧客向けのアップセル・クロスセルの基本戦略

では、具体的に顧客深耕として、どのような活動を行っていけばよいのでしょうか?

ルートセールスで業績を向上させるには、単なる現状維持のための活動以外に、「アップセル活動」「クロスセル活動」を行う必要があります。

アップセルとクロスセルとは?

アップセル、クロスセルでは、以下のような内容の活動を行っていきます。

  • アップセル:顧客が利用しているものと同一カテゴリの商品やサービスで、より高価格・高機能なものを提案することで、顧客満足度の向上と自社の業績向上を両立させる
  • クロスセル:顧客が利用しているものと関連性の高い別カテゴリ商品などを組み合わせて提案(例:消耗品+管理ソフト)することで、さらなる課題解決を実現し、自社の業績も向上させる

単に高額の商品を販売するという視点ではなく、顧客のニーズの充足や課題解決を行うために、様々な提案を行い、結果的に自社の業績の向上につなげる活動がアップセル・クロスセル活動と考えるとよいでしょう。

つまり、ルートセールスでは、いつもと同じ商品だけを販売するだけでなく、顧客の使用状況や事業成長に合わせてニーズを的確にとらえ、提案内容を広げていくことが、売上増加・収益向上のカギになります。

例えば、顧客の営業方針が変わり、より高品質の商品やサービスを求める顧客をターゲットにした場合、高品質の商品を支える素材が必要となれば、今までよりもより品質の高い素材を提供するチャンスです。

しかし、顧客への情報収集を怠っていればそのようなチャンスを逃すことに繋がりますし、自社の強みや提供価値を日ごろから伝えられていなければ、高品質素材を提供できるレベルの企業であると認識されず提案の機会をもらえないかもしれません。

アップセル・クロスセルの機会を逃さないためには、適切なタイミングでの情報収集とコミュニケーションが欠かせません。

顧客理解を深める情報収集

アップセル、クロスセル活動はあくまで顧客の課題やニーズに沿って行われるべきもので、単に自分たちが売りたいものをアピールする活動とは異なります。

そのため、日々のコミュニケーションの中で、以下のようなことを意識して顧客を観察する必要ができきます。

  • 使用傾向の変化:注文頻度・注文量・注文内容の変化が現れたときに背景を探る
  • 現場のちょっとした困りごと:納品タイミングで使い勝手や満足度などを直接聞く
  • 組織変更や担当者交代など:組織変更の目的などを把握して、組織課題の変化を察知する

顧客の課題やニーズが変化にはかならず兆候が見られます。そのかすかな兆候を見つけることができる観察力がルートセールスに求められる重要なスキルの一つといってよいでしょう。

提案のタイミングときっかけを捉える

顧客のニーズの変化が捉えられたとしても、適切なタイミングで提案を行わなければ、業績向上にはつながりません。特にルートセールスの対象となることが多い大企業では、年度開始時点から計画に沿って予算が割当てられて、さまざまな業務が行われていることが多く、計画外の提案はなかなか受け入れられません。

日々の情報収集で得た内容をもとに、以下のようなきっかけとなりうるタイミングで、提案の機会を得るように活動していきましょう。

  • 契約更新・価格改定時:単価交渉と合わせて新たな選択肢を提示
  • 新年度や繁忙期前:予算や体制変更を見据えて提案
  • 問い合わせやクレーム発生時:課題に応じた製品・サービスの紹介

近年の日本市場では、物価高をあおりを受けて、価格交渉をせざるを得ない状況が発生しています。そのような状況で、提案しづらい価格アップを単に条件を伝える場とするのではなく、どのような形であれば価格アップを受け入れられるのかを一緒に考える機会としてとらえるなど、前向きな姿勢で活動することが求められます。

CRM/SFAツールを活用したルートセールス活動

ここまで解説してきたように、ルートセールスでは顧客の変化をとらえ、適切なタイミングで顧客のニーズを満たす提案を行う必要があります。しかし、ルートセールス担当者は、規模や業種の異なる数多くの顧客を抱えていることが多く、企業ごとに異なる動きをタイムリーにとらえることは簡単ではありません。

そのような状況では、担当者に丸投げの属人的なルートセールス活動から脱却し、チームで情報を共有・活用するためにCRM/SFAツールの導入・活用が欠かせません。

個人ではなかなか捉えきれない顧客情報の可視化と、タイムリーなアプローチの実現がルートセールスにおける業績向上の成否を分けます。

ここからはCRM/SFAツールの例として、Zoho CRM を題材として、具体的な活用イメージをつかんでいきましょう。

顧客情報の一元管理と活用

既存顧客深耕の第一歩は、訪問履歴・対応履歴・利用状況・課題情報など、すべての接点から得られた情報を一つのプラットフォームに集約することです。ルートセールスで毎月訪問していたとしても、「前回何を提案したか」「いま現場では何に困っているか」といった情報が保存されていなければ、次の一手を打ちにくくなります。

CRM/SFAツールを活用すれば様々な情報を残すことができ、以下のような体制を整えることが可能です。

  • 商談履歴、提案内容、訪問ログなどをチームで共有
  • 定期訪問の内容を記録し、前回からの変化を振り返る
  • 担当者が変わっても、引き継ぎミスがない状態を保つ

例えば、Zoho CRMでは、顧客への訪問履歴を「予定」タブで管理することが可能です。毎回の訪問時に顧客と何を目的にどのような話をしたのかを履歴として残すこともできます。

予定の追加
予定のメモ追加

このような記録がないと、アップセル活動が功を奏して、より品質の高い商品の切り替えに成功したとしても、どのような提案や理由で顧客が商品を切り替えたのかは担当者以外には誰にも分らないといった事態が起こりえます。

タスクの追加と訪問後のメモの追加、連絡先や取引先からの情報確認の方法は以下の動画を参考としてください。

予定の新規作成とメモによる情報追加

さらに、顧客が抱える課題を訪問履歴に残すだけでなく、組織が抱える課題として、「取引先」に情報として残すことで、担当者への引継ぎもスムーズとなり、どのような課題を抱えている企業がどのような商品・サービスを求めているのかといった組織としてのナレッジの蓄積にもつながります。

取引先の項目で組織課題の保存

提案機会の見える化

CRM/SFAツールを活用することで、顧客ごとの提案機会を定量的に把握することができるようになります。

例えば、「〇〇製品を毎月定期購入しているが、関連する□□サービスは未導入」といった顧客に対して、過去に購入済みの商品カテゴリを取引先ごとに管理すれば、クロスセルの余地があることが簡単に可視化できます。

以下の動画はカテゴリBの商品を未購入の顧客を絞り込む操作の流れです。

特定商品未購入企業の絞り込み

また、メール開封履歴やセミナー参加履歴などを分析することで、「関心度の高い顧客」「再アプローチすべき顧客」をリストアップすることも可能です。

さらに、Zoho CRMの「スコアリング」機能を活用すれば、売上ポテンシャルや成約確度に応じて顧客をランク付けすることができ、ルートセールスの訪問先や提案先を優先順位付けして管理することができます。

ルートセールスの効率化とアプローチ強化

CRM/SFAを導入することで、ルート営業の非効率を解消し、戦略的な営業活動を実現できます。

たとえば、予算編成時期の1か月前に確実にフォローを行いたい場合には、取引先や連絡先の項目として「次回予算編成時期」という項目を作成し、期日到来の1か月前にフォロータスクが自動で発生させることが可能です。

予算編成フォロータスク自動作成

Zoho CRMでは、訪問予定やタスクの自動設定が可能で、上記のようなワークフローを作成することで、フォローの遅れなどの「機会損失」を防げます。

営業担当者は自動で作成されるタスクに対応を進めればよいため、自身がやるべきことを簡単に把握できますし、営業マネージャーはタスクの対応状況を確認すれば、各担当者が適切な行動を取っているかどうかが一目でわかります。

他にも、レポート機能で、年度や月ごとの売上金額を集計し、「購入金額が変化している取引先」を把握することで、離反リスクのある顧客に早期にアプローチすることができます。これにより、営業担当は「訪問先が何となく決まる」のではなく、「注力すべき相手に戦略的に時間を使う」ことができるようになります。

営業マネージャーのマネジメント活用

CRM/SFAツールの真価は、営業現場だけでなく、営業マネージャーのマネジメントにおいても発揮されます。CRM/SFAツールを使えば、チーム全体の活動状況や個別案件の進捗、既存顧客の深耕状況をリアルタイムで把握でき、的確な指導や施策展開が可能になります。

商談分析ダッシュボード

上記の画面は、最初から用意されている商談の分析を目的としたダッシュボードですが、このような情報を既存顧客だけに絞って表示させることも可能です。

たとえば、ダッシュボード機能を活用して既存顧客に対する「訪問数」「提案件数」「アップセルによる売上」「クロスセルによる売上」などを可視化することで、営業チーム全体の既存顧客深耕に関するKPIを日々モニタリングできます。

また、個人ごとの活動ログから「成果の高い営業担当者の特徴(例:提案件数が多い/フォローの間隔が短い)」を分析し、他のメンバーと共有することで、チーム全体の底上げにつなげることも可能です。

まとめ

ルートセールスの現場では、「決まった商品を届ける」だけでは成長が頭打ちになります。既存顧客との関係を活かして、アップセルやクロスセルを実現するためには、日々のやりとりの中で「小さな変化」や「潜在ニーズ」に気づく力が必要です。

そのためには、顧客情報をきちんと蓄積・共有できる仕組み=CRM/SFAツールの活用が欠かせません。営業マネージャーとしては、属人化した営業活動を「チームで成果を出す営業」に変えていく視点が、組織の収益最大化につながります。