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ロイヤルカスタマーを見極めるための「定義と視点」を揃える
ロイヤルカスタマーを正確に特定し、育成していくためには、まず、「誰をロイヤルカスタマーとみなすのか」という基準を社内で明確にし、共有の視点を持つ必要があります。
一般的に語られるロイヤルカスタマー像は存在しますが、実際には企業の業種やビジネスモデル、顧客構造によって「ロイヤル」とみなす条件は大きく異なるため、自社に見合うモデルを検討する必要があります。
ここでは、まずロイヤルカスタマーの一般的な定義を確認した上で、自社にとっての理想像をどう描くべきか、その違いや注意点を整理します。さらに、リピーターとの違い、定量・定性の視点の重要性、そして定義が曖昧な場合に起こる問題についても解説します。
ロイヤルカスタマーとは何かを明確にする
ロイヤルカスタマーとは、企業に対して継続的に価値をもたらす存在です。繰り返し商品を購入し、ブランドや企業に対して高い信頼や愛着を持ち、さらにその魅力を他者に伝えてくれる顧客を指します。
こうした顧客は一般的に、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が高く、継続的に購買を行うリピート傾向があり、さらには友人・知人への推奨や紹介行動も積極的に行うという特徴を持ちます。企業にとって長期的な収益源であり、新たな顧客を呼び込む起点にもなり得る存在です。
ただし、その定義はあくまで一般的なものであり、自社のビジネスモデルや顧客との関係性によって変わります。例えば、BtoCとBtoBでは、ロイヤルカスタマーとみなす条件や接点の深さが異なります。
観点 | BtoCの場合 | BtoBの場合 |
取引の継続性 |
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ブランドとの関係性 |
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社内外での接点密度 |
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紹介・推奨の行動 |
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収益への貢献度 |
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信頼・感情的なつながり |
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例えば、BtoCであれば、「高頻度で購入し、SNSで商品を勧めてくれるファン」のような存在が該当しますが、BtoBでは「複数部署を巻き込み、長期間にわたって取引を継続する担当者」がロイヤルカスタマーとして機能します。
この定義が社内で共有できていないと、「一度だけ大きな取引をしたが今は離反している顧客」や、「偶発的に継続しているだけの顧客」を誤ってロイヤル層と判断してしまい、本来注力すべきではない層に対してリソースが割かれてしまうといったズレが発生します。
投資対効果の低下や施策の形骸化といった課題につながる可能性も出てくるため、まずは、自社にとってのロイヤルカスタマー像を言語化し、それを組織全体で共有することが重要です。
リピーターとの違いを理解し、真のロイヤル層を見抜く視点
商品やサービスを複数回購入している顧客がいたとしても、その人をすぐにロイヤルカスタマーであるとみなすことは早計です。リピーターはあくまで「繰り返し購入している顧客」であり、その理由が価格や利便性などを理由に購入を行っている場合、競合他社へ容易に切り替わる可能性もあります。
一方で、ロイヤルカスタマーは企業やブランドに対する強い信頼や共感を持ち、自発的に継続利用や他者への紹介といった行動を取る層です。単なる利用回数ではなく、「なぜその顧客が継続しているのか」「どれだけ企業との関係性が深いか」が見極めのカギとなります。
この両者を混同すると、期待したほどの継続利用や紹介とった行動が得られず、施策のROI(費用対効果)が悪化するリスクがあります。例えば、割引目的で一時的に購入していたリピーターに対して、多くのコストをかけてキャンペーン施策を投じても、すぐに離反してしまうといった具合です。
こうした失敗を避けるためにも、「何をもってロイヤルカスタマーとするか」をデータと現場の知見の両面から定義し、それを営業・マーケティング・カスタマーサクセスなど関係部署で共通認識として持つことが重要です。
定量と定性の両面から定義を深掘る
ロイヤルカスタマーを実態に即して正しく定義するためには、数値化できる「定量的な指標」だけでなく、感情や関係性といった「定性的な情報」を組み合わせて評価します。
例えば、LTVや購買頻度、購入金額といった定量データは、顧客の収益性や継続性を把握するうえでの基本的な指標です。しかし、それだけでは、企業との関係性の深さや将来的な発展性を十分に捉えることはできません。そのために、以下のような心理的な行動側面にも目を向けることが重要です。
- 自社ブランドや製品への愛着や共感
- SNS上での言及、口コミ投稿、レビューなどの自発的発信
- コミュニティイベントへの参加
- 周囲への紹介行動
- 他の顧客への影響力(インフルエンス力)
また、もう一つ見落とされがちなのが、社内に蓄積された現場の知見です。例えば、営業担当者やサポート担当が感じている「この顧客は関係が深い」「困りごとを率直に話してくれる」「改善提案を前向きに共有してくれる」といった肌感は、データには現れにくいものの、極めて重要な評価材料になります。
このように、定量と定性の両面から顧客を評価し、表面的な数値では見えない真のロイヤル性を把握することも重要です。
ロイヤルカスタマーを見極めるための評価指標
ロイヤルカスタマーを実際に抽出し、施策の対象としていくためには、「どんな指標でロイヤル度を測るのか」という共通の評価軸が必要です。ここでは、企業が実務でよく用いる評価指標を5つに分類し、それぞれの見方・使い方・注意点を整理していきます。
LTV(Life Time Value)で顧客の将来価値を可視化する
ロイヤルカスタマーを見極める上で、まず押さえておきたいのが「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」という指標です。LTVとは、ある顧客が生涯にわたって企業にもたらす収益や利益を数値化したものであり、単なる購買金額ではなく、長期的な関係性の中での価値を評価する指標です。
LTVを算出する際に活用する一般的な要素は以下の4つです。
- 平均購買単価
- 購買頻度
- 継続利用年数
- 契約期間
これらの要素を踏まえたLTVの算出方法について、まずはBtoCの場合の基本的な例から見ていきましょう。
基本的な算出式(BtoC向けの一例)
LTV = 平均購入単価 × 平均購入頻度 × 継続期間
1回の購入で1万円の商品を、年に4回、3年間継続購入する顧客がいれば、そのLTVは「1万円 × 4回 × 3年=12万円」となります。この金額が、当該顧客が企業にもたらす生涯の粗売上となるわけです。
BtoBでは契約ベースで考える
BtoBビジネスでは、LTVはしばしば以下のように算出されます。
LTV = 年間契約額 × 継続年数
年額120万円の契約を5年継続してくれる法人顧客であれば、LTVは600万円になります。加えて、契約更新率(リテンションレート)やチャーン(解約)率を考慮し、将来の収益性を割引率込みで見積もるモデルを用いるケースもあります。
LTVは、単に「たくさん買ってくれる人」を見つけるための指標ではありません。企業にとって重要なのは、今後も継続的に価値をもたらすかどうかという将来性です。特にサブスクリプション型ビジネスや高単価の長期契約が中心のBtoBでは、LTVが経営指標としても重視されています。
ただし、過去の売上実績だけでロイヤルと判断するのは早計です。たまたま一度だけ大きな金額を使った顧客が、今後も同じように取引を続けるとは限らないでしょう。リピート傾向、アップセルの可能性、解約の兆候などもあわせて評価し、今後の価値をさまざまな視点で見積もる視点を持つことが重要です。
RFM分析で購買行動から顧客の温度感を測る
次に押さえておきたいのが「RFM分析」です。これは、顧客の購買行動を次の3つの指標でスコア化し、総合的に評価する分析手法です。
- Recency(直近の購入日)
- Frequency(購入頻度)
- Monetary(購入金額)
それぞれを1〜5などの段階でスコアリングし、その組み合わせで顧客をセグメント化します。例えば「R5/F5/M5」の顧客は「最近購入した」「頻度が高い」「金額も大きい」という条件をすべて満たすため、極めてロイヤル度が高い最重要顧客と判断されます。
この分析は、CSVやExcelなどの表計算ツールでも比較的簡単に実施できるのが特長です。データの整備が整っていれば、顧客リストにR・F・Mそれぞれのスコアを付け、マトリクス状に分類していくことで、自社の顧客層の構造が可視化できます。CRMツールやMAツールに頼らずとも、実務で手軽にスタートできる点で、初期のロイヤル層抽出手法として有効です。
一方で注意したいのは、RFMはあくまで「購買行動」に依存した分析手法であることです。例えば、購入には至っていないが問い合わせを頻繁にしてくれる見込み顧客や、セミナー参加やコミュニティ活動など非購買の接点を多く持つエンゲージメントの高い顧客は、この分析では評価されにくい側面があります。
そのため、RFMはあくまでロイヤルカスタマー候補の「絞り込み」として活用し、他の視点(定性情報やエンゲージメントデータなど)と組み合わせて総合的に判断するのが理想的です。
エンゲージメント指標で顧客の関心・関与の深さを把握する
ロイヤルカスタマーを見極める際、購買データだけでは把握しきれない関心の深さやつながりの強さを評価する手段として注目されるのが、エンゲージメント指標です。
エンゲージメントとは、顧客が企業やブランドに対してどれだけ継続的に関わっているかを示すものであり、将来的にロイヤル化する可能性を秘めた層を見つけ出す上で欠かせない視点です。
具体的な指標には、次のような行動データが含まれます。
- メールの開封率やクリック率
- Webサイトやアプリへのログイン頻度
- 資料請求やセミナー・ウェビナーへの参加履歴
- SNSアカウントのフォロー、コメント、シェアといった反応
こうした行動は、必ずしもすぐに購買につながっていない場合もありますが、企業への興味関心が高く、継続的な接点を持っていることを示す重要なサインです。例えば「頻繁に開封・クリックするが、まだ購入には至っていない」顧客は、適切なタイミングとフォロー次第でロイヤル化につながる可能性が高いと考えられます。
購買という最終的な結果だけでなく、その前段階にある関与の深さにも目を向けることで、ロイヤルカスタマーの予備軍を見逃さずに育成対象として捉えることができます。
ただし注意すべきは、単発的な行動だけでは判断できないという点です。たまたま1回クリックした、1度だけ資料請求したといった行動だけでエンゲージメントが高いと見なすのは早計です。継続的に関与があるのかを見極める視点が必要であり、行動の量と頻度、経過に着目すると良いでしょう。
NPSや満足度スコアで推奨したい気持ちを数値で捉える
定量データだけでなく、「このブランドを他者に勧めたいか」といった心理的な意欲も評価対象になります。その代表的な指標が、NPS(Net Promoter Score)と顧客満足度スコアです。
NPSは、「あなたはこの商品・サービスを友人や同僚にすすめたいと思いますか?」というたった1問に対して、0~10のスコアで回答してもらう方式で、以下のように分類されます。
- 9〜10点:推奨者(Promoters)
- 7〜8点:中立者(Passives)
- 0〜6点:批判者(Detractors)
最終的なスコアは「推奨者の割合 - 批判者の割合」で算出され、この値が高いほど、企業やサービスへの強いロイヤルティがあると評価されます。NPSの高い顧客は、紹介・クチコミ・レビューといった自発的行動を取りやすく、ロイヤルカスタマー候補として重視されるべき層です。
あわせて、従来型の*顧客満足度アンケート(CS調査)も、顧客の感情面の評価や、商品・対応に対する改善要望を知る手段として有効です。定期的な調査を通じて、改善につなげることで、ロイヤル化の可能性を高めることができます。
ただし、こうした主観的スコアにはいくつかの注意点があります。
- 回答者の属性に偏りが出やすい(不満を持つ人が積極的に回答しやすいなど)
- 一時的な感情にスコアが影響されやすい
- 「満足している」=「継続利用・紹介する」とは限らない
そのため、LTVやエンゲージメント指標、RFMなどの行動データと併せて活用することが前提です。NPSや満足度スコアは顧客の声を可視化する有力な手段である一方、それだけに依存せず、複数の指標と組み合わせて評価する姿勢が求められます。
CRMやMAで取得できる接点・行動履歴の活用
ロイヤルカスタマーを見極めるうえで、購買情報だけでなく「企業との接点でどのような行動を取ってきたか」という非購買領域の履歴データも重要な判断材料になります。特にCRM(顧客管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用すれば、そうした情報を一元的に蓄積し、分析することが可能です。
例えば、以下のような情報は、顧客の関心度や関与レベルを把握するうえで有効です。
- 営業やカスタマーサポートへの問い合わせ内容と対応回数
- Webサイトでの資料閲覧やホワイトペーパーダウンロードの履歴
- チャットボットやメール配信に対する開封・クリック・返信などの反応率
- イベントやウェビナーへの申し込み・出席履歴
- アカウント内での利用状況や操作ログ(BtoBのSaaS系など)
これらの行動履歴を時系列で把握することで、「関心が高まっているタイミング」「サポートへの信頼度の変化」「営業活動への反応」など、ロイヤル化への兆しをより早く、正確に捉えることができます。
また、CRMとMAツールを連携させることで、行動パターンに応じたスコアリングやリードナーチャリングも可能になります。例えば、「特定のページを何度も見ている顧客」や「高頻度でセミナーに参加している顧客」に対して、パーソナライズしたアプローチを行うといった施策展開にもつなげやすくなります。
ただし、こうした接点データが営業部門、マーケ部門、カスタマーサポート部門などに分散して管理されている場合、全体像がつかみにくく、断片的な判断につながってしまう恐れがあります。したがって、これらの情報はCRMに集約・統合し、「一つの顧客像」として管理することが重要です。
行動履歴の活用は、量よりも文脈が大切です。 どの接点でどんな反応があったか、その背景や温度感を把握することで、より精度の高いロイヤルカスタマーの見極めにつながります。
ロイヤルカスタマーを特定する分析手法とセグメンテーション
ロイヤルカスタマーを的確に特定するためにも、顧客を分析し分類(セグメンテーション化)するための仕組みを整えます。勘や属人的な感覚に頼らず、定量的な行動履歴や収益データと定性データの両視点から顧客をスコアリングし、明確な基準でセグメント分けを行うことで、マーケティングや営業施策の優先順位付けが可能になります。ここでは、実際の分析方法やセグメント設計方法をステップごとに整理します。
RFM分析によるスコアリングと顧客分類の手法
RFM分析で視るRecency(最終購入日)・Frequency(購入頻度)・Monetary(購入金額)の3点の要素からスコアを付け、優先順位付を行い、ロイヤル層候補顧客を分類する方法です。
まずは、各指標を1〜5のスコア(5が最高スコア)で評価し、R・F・Mの3軸で合計または組み合わせて以下を例に評価します。
- R:最終購入日が新しいほどスコアが高い
(例)直近1ヶ月以内=R5、6ヶ月以上前=R1 - F:一定期間内の購入回数が多いほどスコアが高い
(例)年間10回以上=F5、1回=F1 - M:合計購入金額が高いほどスコアが高い
(例)10万円以上=M5、1万円未満=M1
各顧客を以下の表のように整理し、総合スコアを算出してみます、
顧客名 | Rスコア | Fスコア | Mスコア | 総合スコア | セグメント分類 |
A社 | 5 | 5 | 5 | 15 | 最上位ロイヤル層 |
B社 | 3 | 4 | 4 | 11 | 中堅層 |
C社 | 1 | 1 | 2 | 4 | 低貢献層 |
総合スコアが高ければ、優先度の高い最上位ロイヤル層、スコアが低ければ離反の可能性がある層であり再アプローチが必須である層だと考えられます。
RFMはBtoCのEC業界ではよく活用され、RMFを用いたセグメントごとの施策設計やキャンペーンの優先順位の判断要素などに使われます。
LTV計算で収益性の高い顧客を見える化する方法
1人の顧客が将来的に企業にもたらす収益の総額を予測する指標がLTV計算です。LTVはビジネス業態により用いる要素が異なります。例えばSaaS型ビジネスの場合とECなどの場合の例は以下のような算出になります。
- SaaS型ビジネスの場合
例:月額5,000円のプランを平均18ヶ月継続している場合
→ LTV=5,000円×18ヶ月=90,000円 - ECなどの単発購入型ビジネスの場合
例:
・平均購入単価(例:3,000円)
・年間購入頻度(例:4回)
・想定継続年数(例:3年)
→ LTV=3,000円×4回×3年=36,000円
EC(単発購入型)ビジネスの場合、表にまとめると以下のようになります。
顧客名 | 単価 | 購入頻度 | 継続年数 | LTV | セグメント分類 |
A社 | ¥10,000 | 6回/年 | 3年 | ¥180,000 | 最重要顧客 |
B社 | ¥5,000 | 4回/年 | 2年 | ¥40,000 | 中堅層 |
C社 | ¥3,000 | 2回/年 | 1年 | ¥6,000 | 低貢献層 |
このように整理することで、LTVの高い顧客に対しては、最重要顧客として個別フォローやアップセル提案、また中堅層に対しては購入頻度を上げるための施策を行うなど、セグメントごとに適切な施策を考案することができるよう
多要素スコアリングモデルの設計と注意点
前述したRFMやLTVなどの個別指標でセグメントする方法の他にも、複数の評価軸を組み合わせて評価する設計方法もあります。自社にとって重要度の高いと感じる要素をスコア化し、それぞれに重み付けして総合点を算出する方法です。これを用いることで理想的なロイヤルカスタマー像により近づいた分析が可能になります。
例えば、以下の3点を評価軸とし、また重みをつけて設計してみます。
- 購買頻度:30%(×6)
- 購入金額:20%(×4)
- 接点回数:20%(×4)
- 満足度スコア:30%(×6)
これは、定期的な購入やロイヤル化の起点となる、感情面のエンゲージメントを重視して重みをつけた例です。それぞれを顧客ごとに整理し、総合スコアを算出すると以下のようにセグメント化することができます。
顧客名 | 購買頻度 (30%) | 購入金額 (20%) | 接点回数 (20%) | 満足度スコア (30%) | 総合スコア | セグメント分類 |
A社 | 5(×6) | 4(×4) | 5(×4) | 5(×6) | 86 | 最重要顧客 |
B社 | 3(×6) | 3(×4) | 3(×4) | 4(×6) | 66 | 中堅層 |
C社 | 2(×6) | 2(×4) | 1(×4) | 2(×6) | 38 | 低貢献層 |
複数要素で設計する際は、初期段階では3〜5指標に絞るのが現実的です。要素が多すぎると運用が複雑になり、分析精度や実行力が低下する可能性がありますのでまずは実用的な指標のみで運用を開始し、必要に応じて段階的に要素を増やしていくのがより良いです。またデータ更新の頻度も設計段階で決めておくことも注意すべきポイントです。接点回数のデータや満足度スコアは特に変動が激しいため、更新タイミングを決めておき、最新データを用いてセグメントできると良いでしょう。
スコアや属性に基づくセグメント分けと戦略設計の下地作り
スコアリング結果に基づき、顧客をセグメント化した後は、各セグメントに最適な施策を設計し、戦略設計の下地を作ります。例えばセグメントを「最重要顧客」「中堅層」「低貢献層」の3種に分けてみます。そしてそれぞれの特徴を定め、その特徴に沿って施策方針を整理します。
- 最重要顧客:LTVやRFMスコアが高く、継続的な収益貢献が見込める可能性が高い顧客。関係性も深く、ロイヤルカスタマーとしての資質が高い。
- 中堅層:スコアは中程度だが、接点や利用傾向から今後ロイヤル化の可能性がある顧客。
- 低貢献層:購入頻度や接点が少なく、現状では収益貢献が低い顧客(過去に離反した顧客も含まれる)
セグメント | 施策方針 |
最重要顧客 |
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中堅層 |
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低貢献層 |
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Excelやスプレッドシートでも始められる
ロイヤルカスタマーの可視化やセグメンテーション化は、CRMやMAツールがなくても、ExcelやGoogleスプレッドシートを使って購買データや顧客情報を整理するだけで実施可能です。以下のRFMやLTVの表にように各項目を一覧化し、上位〜下位にスコア分布をします。
- LTV分析
顧客名 | 単価 | 購入頻度 | 継続年数 | LTV | セグメント分類 |
A社 | ¥10,000 | 6回/年 | 3年 | ¥180,000 | 最重要顧客 |
B社 | ¥5,000 | 4回/年 | 2年 | ¥40,000 | 中堅層 |
C社 | ¥3,000 | 2回/年 | 1年 | ¥6,000 | 低貢献層 |
- RFM分析
顧客名 | Rスコア | Fスコア | Mスコア | 総合スコア | セグメント分類 |
A社 | 5 | 5 | 5 | 15 | 最上位ロイヤル層 |
B社 | 3 | 4 | 4 | 11 | 中堅層 |
C社 | 1 | 1 | 2 | 4 | 低貢献層 |
まずは手元のデータで分析に慣れることが、将来的なCRMツールの有効活用にもつながります。
理想のロイヤルカスタマー像を共有し定義する
ロイヤルカスタマーを評価・選別するだけでなく、将来的にどのような顧客を育てていきたいのか、その理想像を社内で共有することが重要です。それによって、育成の方針やサービスやプロダクト設計を統一させることができ、全社的な顧客戦略の精度が高まるからです。ここでは、部門間で理想像をすり合わせるためのポイントと、その理想像をどのように戦略・施策にどうつなげていくかについて整理します。
部門横断で顧客像をすり合わせる
営業、マーケティング、カスタマーサクセスなど、部門が異なると顧客との接点や重視する評価軸が異なるため、理想のロイヤルカスタマー像に対する見方にもズレがちです。
まず視点の違いがあることを前提に、部門横断での対話の場を設けることが重要です。例えば、実在する既存顧客の事例を部門ごとに持ち寄り、この顧客をロイヤルと考える理由について検討し、他部門に共有したり、「金額面」「関係性」「行動変容」「態度・ブランド支持」など、視点ごとに分類しながら、共通点やギャップを可視化するなど、具体的な議論を行います。
戦略・施策につなげる顧客像の明確化
ロイヤルカスタマー像は、抽象的な状態ではなく、ペルソナとして具体的に文書化できる程度に落とし込みます。利用継続年数、月額平均利用額、関係性や態度、といった細かな点まで明確にしてみましょう。実際に社内で共通言語として扱えるレベルのロイヤルカスタマー像の例を挙げます。
【例1】BtoB SaaS企業の場合
- 業種:ITサービス業
- 従業員規模:300〜500名
- 導入部門:営業本部(30名)
- 契約期間:6年以上
- 月額利用金額:15万円以上
- 利用頻度:毎営業日/主要機能を全体の7割活用
- 関係性:営業担当と年3回の定例MTGを実施/Slackでも雑談あり
- 支援度:他企業への紹介実績あり/導入事例の公開にも協力
- 態度面:SNSで自社サービスに関する好意的な投稿あり
【例2】BtoC ECサイトの場合(化粧品通販)
- 年齢層:30代後半〜40代前半の女性
- 購入履歴:年間6回以上/累計購入額5万円以上
- 平均購入単価:8,000円
- レビュー投稿率:40%以上
- SNSフォロー有無:Instagramでフォロー・コメントあり
- ブランド支持態度:キャンペーンや限定品の再購入率が高い
- 問い合わせ傾向:丁寧な質問や改善提案あり、クレームは少ない
ここまで細かく描くと、誰に、何を、どう届けるべきかの判断軸として機能し、営業・マーケ・CS部門それぞれの育成施策の方針も立てやすくなります。