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中小企業でよくある顧客管理の課題
中小企業では、限られた人数と時間の中で営業や顧客対応を行っており、日々の業務を回す中で「今あるやり方でなんとか乗り切る」という状況に陥りがちです。その結果として、エクセルや紙、個人のメモなどに頼った顧客管理が常態化し、気づかぬうちに情報の分散や更新漏れ、属人化といった非効率が積み重なっていきます。ここでは、中小企業が直面しやすい代表的な課題を取り上げ、どこに改善の糸口があるのかを整理していきます。
エクセル・紙ベースによる管理の限界
手軽でコストをかけずに始められる反面、情報量が増えるほど管理が破綻しやすいのがエクセル・紙ベース運用の弱点です。
多くの中小企業では、営業担当者が個人でエクセルや紙に顧客情報を管理しているケースが見られます。初期段階では機能していたとしても、顧客数や対応履歴が増えるにつれて、情報の分散と属人化が進行しやすくなります。
例えば、各自が独自の管理方法を用いていると、担当者が不在の際に情報が確認できず、他の社員がスムーズに対応できないといった事態が発生します。
また、情報の更新漏れや重複して情報を管理してしまうのも、エクセルや紙ベースの運用にありがちな問題です。手動での入力が前提となるため、入力ミスや記載漏れといったヒューマンエラーが起きやすくなり、顧客情報の正確性が損なわれます。さらに、必要な情報を探したり、集計作業を行ったりするのにも時間がかかるなど、本来、営業にかけるべき時間が、管理作業に取られてしまいます。
顧客対応の質に影響するリスク
顧客とのやり取りが社内に共有されていないと、顧客対応にもさまざまな支障が生じてきます。例えば、過去の問い合わせ内容や提案履歴が確認できなければ、顧客の要望等が分からず、意図や期待に応じた対応ができません。
前回の顧客とのやり取りが不明瞭のまま話を進めてしまえば、顧客へ再び説明を求めることになり、企業への信頼も低下しかねません。アプローチした記録等が残っていなければ、別の担当者が同じ問い合わせに重ねて対応するなど、ミスや重複対応が発生するリスクも高まります。このような状態が続くと、顧客対応の質の低下だけでなく、チーム内での情報確認に余計な時間がかかり、結果として業務の生産性も下がってしまいます。
チームとしての営業活動が機能しない
顧客情報が担当者ごとにバラバラに管理されていると、チームとしての営業活動が成り立たなくなります。属人化が進んだ状態では、特定の営業担当者しか把握していない顧客の情報が社内に共有されず、引き継ぎや連携がうまくいかないことで、営業活動そのものが断続的になってしまいます。
例えば、担当者の退職や長期不在の際に、対応の履歴や提案内容がわからず、関係構築が振り出しに戻ってしまうといった事例は珍しくありません。また、新人教育においても「誰が、どのように」顧客対応をしているのかが明文化・可視化されていないため、属人的なノウハウに依存した非効率な育成が続いてしまうことも考えられます。
情報が整理・連携されていなければ、個々の営業力がいくら高くとも「チーム」としてのパフォーマンスは発揮されません。結果的に、売上や顧客満足度の低下、業務の再現性が低いといった形で組織全体に影響が出てしまい、営業活動そのものが持続的に機能しなくなる大きなリスクにつながります。
効率化の第一歩は「顧客情報の一元管理」
こうした状況を改善するには、最初に取り組むべきなのが「顧客情報の一元管理」です。一元管理とは、社内の誰もが必要な情報にアクセスでき、同じ前提で行動できる状態をつくることです。これは単なる「整理整頓」ではなく、営業活動や顧客対応を属人化させず、再現性のある業務プロセスとして設計するための基盤づくりとも言えます。
例えば、マーケティング部門が獲得したリードに対し、営業部門がどのようなフォローを行い、現在どの段階にあるのかを社内全体で把握できれば、次のアクションを判断する際に、情報の確認や調整に余計な手間がかからず、迅速かつ的確な対応が可能になります。また、過去の対応履歴や顧客の反応が記録されていれば、誰が担当しても同じ水準の提案やフォローが可能となり、個人に依存しない営業活動が実現します。さらに、営業状況をリアルタイムで把握できるようになれば、マネージャーは、フェーズごとの商談数やボトルネックを即座に把握し、的確な判断やフォローの指示も可能になります。
このように、一元管理は単なる「管理のための管理」ではなく、属人化を防ぎ、チーム全体で成果を出すための土台であり、必要な人が、必要なタイミングで、次のアクションを正しく判断・実行できるように情報を整備・共有しておくための仕組みです。
一元管理で変わる営業のチーム力
顧客情報を一元管理することで、営業活動が個人によるものから、チームで成果を上げる仕組みへと変わっていきます。ここでは、一元管理がもたらす変化について3つの視点から整理していきます。
個人の経験に依存しない判断の共有
属人的な営業が続くと、判断や提案の根拠がブラックボックス化し、チーム全体での意思決定が難しくなり、例えば、「この顧客はAさんが詳しい」「過去にどういう対応をしたかは本人しか知らない」といった状態になりがちです。一方で、情報が一元化され、誰でも過去の接点・提案・反応などを把握できる状態が整えば、個人の記憶や勘に頼らず、データに基づいて次のアクションを判断することができます。例えば、次のような場面を考えてみましょう。
- 過去に2回提案したが受注に至らなかった顧客に、別の営業が再接触を検討中
- 一元管理された情報から「過去の提案内容」「競合比較時の反応」「導入を見送った理由」が確認できる
この場合、「次に何を提示すべきか」「どのタイミングが適切か」をデータをもとにチームで判断でき、無駄な提案やタイミングミスを防ぐことができます。さらに、経験の豊富な営業担当者のノウハウが履歴として残れば、それをもとに若手が判断基準を学ぶこともでき、組織内の「暗黙知」を「共有知」へと転換する仕組みにもなり、営業組織全体の営業力を底上げすることができます。
引き継ぎ・連携がスムーズになる
営業組織では、急な異動や退職、担当の変更など、引き継ぎのタイミングは避けられないものです。また、1社の対応に営業・マーケ・カスタマーサポートが関わる場面も多く、スムーズな情報連携は不可欠です。一元管理されていれば、以下のような情報をすぐに把握できます。
- いつ、どんな媒体を通じて初回接点があったか(展示会/資料請求/紹介など)
- 過去にどんな課題が挙がり、どの製品・サービスを提案したか
- キーパーソンや意思決定プロセスはどうだったか
- 現在どのフェーズにいて、次回どんなアクションが予定されているのか
これにより、引き継ぎの際にも「ゼロからやり直す」「聞かないとわからない」という事態を避けることができ、誰が対応してもすぐに「次の一手」を打てる体制が整います。
また、営業とマーケティングの連携においても、一元化された情報を基に「どのリードを営業に渡すべきか」「過去に失注した理由は何か」といった分析が可能になり、無駄な接触やミスコミュニケーションの削減にもつながります。
顧客への対応品質が安定しやすくなる
顧客対応が属人的であるほど、「担当者によって対応の質が違う」「言っていることが前回と違う」といった不信感を与えるリスクが高まります。しかし、一元管理された情報があれば、誰が担当しても過去のやり取りや提案背景を踏まえた、的確な対応が可能になります。例えば、
- 前回の問い合わせで顧客が「●●の機能に懸念を持っていた」ことが記録されていれば、それを前提にサポートが会話できる
- カスタマーサクセスが導入初期の課題と対応履歴を見た上で、フォローアップを実施できる
このように、対応の品質が属人化せず安定することで、顧客側にとっても「安心して任せられる会社」という印象が積み重なり、信頼関係の構築と継続にも好影響を与えます。中長期的には、「この会社はいつ問い合わせても状況を把握してくれている」と感じてもらうことが、リピーターの維持やアップセルにもつながっていくでしょう。
顧客情報を一元化するためのステップ
顧客対応の質の向上やチーム連携の円滑化のために「まずは、現場に正しく履歴を記録するように伝えよう」とするだけでは情報の一元化は困難です。まずは現場で無理なく運用できる形で、段階的に仕組みを整えていくことが重要です。ここでは、顧客情報を一元化するために実際に取り組むべき4つのプロセスを整理します。
現状の情報の棚卸し
顧客情報の一元化を始める際に、いきなり「新しい仕組みを導入する」「現場に記録を徹底させる」といったアプローチを取っても、現場の混乱や形骸化につながりやすく、定着は困難です。まずは、「今、社内にどんな情報が、どこに、どのように存在しているか」を洗い出し、明らかにすることが重要です。つまり「情報の棚卸し」です。
営業部門では、一般的に以下のような形式・場所に顧客情報が点在しているケースが多く見られます。
- 営業担当者が個別に管理しているExcelやスプレッドシート
- 名刺管理アプリ、または紙の名刺ファイル(営業バッグの中など)
- 過去の提案書や見積書(共有フォルダまたはローカルPC)
- メールソフトやチャット履歴
- 手帳や紙のノートへのメモ
- 口頭でのやり取りや担当者の記憶
これらの情報は、一見整理されているようで、実際には「担当者しかわからない」「他のメンバーが見られない」状態になっていることが多くあります。情報棚卸しの際には、以下の3つの観点で整理することが重要です。
①「どこに・どの形式で」保存されているか
- 紙/Excel/PDF/メール/画像データなどの形式を把握する
- 同じ顧客情報が複数の形式で重複していないかを確認する
例えば、「名刺情報は紙のファイルにもあり、Excelにも打ち込まれているが、内容が微妙に違う」といったケースがよくあります。こうした形式のバラつきや二重管理の箇所を明らかにすることが、後の一元化フェーズでの手戻りを防ぎます。
②「誰が・どの情報にアクセス・編集できるか」
- 共有フォルダ内の顧客データに、アクセス権限が設定されているか
- 情報の書き換え・更新ルールが定まっているか(あるいは無法地帯か)
「誰でも編集できる」状態は一見便利に見えて、誤更新や記録ミス、消去トラブルの温床にもなります。逆に、情報が誰にも編集できず“放置”されている状態も問題です。アクセス管理と更新のルール化は、棚卸しと並行して見直すべきポイントです。
③「現場で実際に使われているか」
形式として存在していても、「現場では使われていない」「更新が止まっている」といった情報は「必要のない情報」として扱うべきです。現場ヒアリングを通じて、「どの情報が現場で活用されているか」「更新が止まっている理由は何か」を把握しておくと、後工程での設計がスムーズになります。
このように、現状の情報資産を「見える化」し、分散・重複・属人化の状態を把握することが、顧客情報の再設計・一元化の第一歩になります。この棚卸しこそが、後の運用ルール設計やツール導入の際に役立ちます。
管理項目の整理
顧客情報の一元管理を行ううえで、「どの情報を管理するか」は極めて重要な設計ポイントです。情報を集めれば集めるほど良いと思われがちですが、現場で運用されない項目を増やしてしまうと、かえって入力の負担が大きくなり、更新されない情報=使われない情報となってしまいます。そのため、まずは最小限の「活用される項目」からスタートし、目的に応じて段階的に拡張していくことが現実的なアプローチです。
ここでは、初期フェーズで管理すべき基本項目を4つのカテゴリに整理し、それぞれの役割と運用上の注意点を補足します。
1. 企業情報(組織属性を理解するための基礎データ)
項目 | 活用例・補足 |
会社名 | 顧客識別の起点。グループ企業名との区別も注意。 |
業種(できれば細分類まで) | セグメント別分析やターゲット戦略に活用。分類ルールを統一しておくとブレにくい。 |
所在地(本社/拠点) | 地域別営業や商談日程調整に活用。拠点情報があると訪問提案の展開もしやすい。 |
企業規模(従業員数、売上高) | 提案内容の調整、導入ハードルの見積もりなどに活用。スコアリングの判断軸にも。 |
2. 担当者情報(コミュニケーションの起点となる人物情報)
項目 | 活用例・補足 |
氏名・役職 | 役職によりアプローチ内容・粒度を変える判断材料に。決裁権の有無も重要。 |
電話/メールアドレス | 役職によりアプローチ内容・粒度を変える判断材料に。決裁権の有無も重要。 |
過去の接点履歴(ある場合) | 過去の展示会、紹介、DMなど起点がわかると提案トーンを調整しやすい。 |
※担当者が複数いる場合は「メイン担当者」「技術担当」「決裁者」などのラベル分けが有効です。
3. 営業履歴(進捗状況を判断し、アクションにつなげるための情報)
項目 | 活用例・補足 |
初回アプローチ日 | フォロー間隔の設計や接点の浅さを測る指標に。 |
商談ステータス(例:未接触/アプローチ済/商談中) | 営業活動の進行状況を一覧で把握でき、マネジメントにも役立つ。 |
次回アクション予定日 | フォロー漏れ防止に最重要。ここがないと「打ちっぱなし」になりやすい。 |
購買意欲レベル(温度感) | 見込み度や優先順位付けに活用。主観的になりすぎない記録ルールを作ると◎。 |
4. 興味・関心情報(マーケティング活動との連携を強化する情報)
項目 | 活用例・補足 |
資料ダウンロード履歴 | 顧客の課題や関心テーマの把握。リードスコアリングに活用可能。 |
セミナー・ウェビナー参加情報 | イベント施策ごとの効果測定、ホットリード判定に。 |
Webサイト閲覧履歴(可能であれば) | デジタル接点を可視化できると、より精緻な提案やアプローチが可能に。 |
最初からすべての情報を厳密に入力・更新しようとすると、現場にとっては大きな負担になってしまいます。
そこで、はじめのうちは以下のような方針を取ると定着しやすくなります。
- 最初は「絶対に必要な項目」だけに絞る
- 更新頻度が低くて済む項目(例:企業情報)は固定化し、負荷の軽減を図る
- ツール導入時は入力補助や初期テンプレートを活用する
このように、「どの情報が必要か」を目的ベースで設計することで、情報が「使われる前提」で管理されるようになり、形だけの管理に陥るのを防ぐことができます。
共有ルールの設計
情報を一元化するために項目を整理しても、入力のルールや表記方法がバラバラでは、情報のブレやミスが起こり、かえって混乱を招いてしまいます。そこで重要になるのが、「どの情報を、どう入力するか」をチーム全体で統一する「共有ルールの設計」です。
入力形式を統一すれば、情報の信頼性が向上するだけでなく、分析や抽出のしやすさ、連携のスムーズさにもつながります。特に属人的な運用が多い中小企業では、テキストの自由入力を極力避け、選択式・定型フォーマットを活用することで、情報の標準化が実現しやすくなります。
標準化しておきたい代表的な項目と入力ルール例
以下は、実際の営業現場で頻出する情報項目と、それぞれに設定すべき標準入力ルールの例です。
項目 | 入力ルールの例 | ポイント |
業種 | 以下の中分類/大分類カテゴリから選択式にする
| 自由記述を避け、後から集計しやすいように分類を明確にする |
企業規模 | 「従業員数」または「売上規模」のどちらかに統一する 従業員数ベース:
売上規模ベース:
| 「どちらかに統一し、表記のバラつきが出ないように入力ルールを明確にする |
役職 | 以下のカテゴリから選択式にする
| 営業上の意思決定権を判断しやすくなる分類にする |
過去接触履歴 | 日付+手段+結果の3点セットで入力
| 履歴を統一フォーマットで管理することで、状況把握や共有がスムーズになる |
商談ステータス | 以下のフェーズから選択式にする
| 段階的なフェーズを固定することで、商談状況をチームで統一的に把握できる |
購買意欲レベル | 以下のカテゴリから選択式にする
| リードの温度感を定量的に管理し、優先順位付けに活用できるようにする |
情報更新と役割分担のルールを明確にする
項目を標準化するだけでなく、「誰が、いつ、どのように情報を更新・管理するのか」という運用ルールも合わせて設計する必要があります。以下のように、具体的な行動基準を設定し、共有することで、継続的な運用が可能になります。
- 営業担当者:顧客接触後24時間以内に接点履歴を更新
- マネージャー:週1回、チームのステータス更新をレビュー
- マーケティング担当:新規リード発生時に基本属性を登録し、営業へ連携
- カスタマーサクセス:契約後の利用状況や課題を定期的に追記
これらのルールを文書化し、顧客情報と接触する担当者全員に対して周知を徹底することで、情報共有の混乱を防ぎ、営業活動の効率化と成果向上につなげることができます。
フォーマットやツールの導入を検討する
顧客情報を一元化するためには、整理されたフォーマットと、全員が迷わず使える仕組みが必要です。その際、ExcelやGoogleスプレッドシートなど、手軽に始められるツールを活用するのが現実的なスタートになります。
例えば、共有スプレッドシートに「会社名・担当者名・ステータス・次回アクション」などの管理項目を定義し、チーム全体で同じ形式で入力・更新するだけでも、情報の一元化と共有はぐっと進みます。また、将来的に情報量が増えたり、営業メンバーが増加していくような場合には、CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)といったツールの導入も視野に入れると良いでしょう。
営業活動と情報管理をつなぐ仕組み設計
顧客情報を整理・一元化した後は、顧客情報を「どう活用し」「どう営業プロセスに組み込むか」という視点が非常に重要です。ここでは、情報管理と営業プロセスを連動させるための設計の考え方を整理します。
営業プロセスと情報のひも付け
営業活動で顧客情報を活用するには、「どの情報を、どのフェーズで、どのように活用するか」という視点を持つ必要があります。営業の各プロセスに、必要な情報を適切に結びつけ、行動の判断材料として活かしていくことで、営業の再現性が高まり、営業活動の質を上げることができます。
営業プロセスは一般的に、マーケティングからリードを引き継いだあと、「クオリフィケーション(見極め)」、「アポイント取得」、「商談」、「クロージング」、「成約」のプロセスを進みます。ここでは、営業プロセスを5つのフェーズに分け、それぞれの段階でどのような情報を活用し、どのように営業アクションにつなげるかを整理します。
クオリフィケーション(見極め)
営業プロセスの起点は、営業対象として適しているかを判断する「見極め」フェーズです。この段階では、マーケティング施策などを通じて獲得したリードの中から、どの案件に優先的にアプローチすべきかを選別します。
ここで活用する情報としては、企業の業種・規模・所在地、担当者の役職といった属性情報に加え、過去の接点履歴やダウンロード資料、セミナー参加の有無などが挙げられます。
例えば、資料請求を行った上に、同業種の導入実績資料をダウンロードしているリードであれば、ニーズが顕在化している可能性が高いと判断できます。また、役職が部長以上であれば、意思決定者に近いポジションであると見なせます。こうした情報をもとに、「どのリードにアプローチすべきかどうか」を判断できます。
アポイント取得
クオリファイされたリードに対しては、次にアポイント獲得を目指します。ここでは、相手の関心レベルや過去の対応履歴を踏まえたうえで、最適なチャネルとタイミングで接触を試みることが重要です。
例えば、前回の営業メールに反応がなかったものの、最近になってWebサイトに再訪している履歴があれば、「興味が再燃している可能性がある」と判断できます。また、「前回のアプローチは“時期尚早”との理由で見送られた」など、断られた背景を理解できていれば、今回はより適切なタイミングでのアプローチが可能になります。
商談
アポイントが取れた後の商談フェーズでは、顧客の課題を深掘りし、最適な提案を設計する必要があります。この時、詳細な情報が役立ちます。
ヒアリング内容はもちろんのこと、顧客が感じている潜在的な不満や、導入にあたっての制約条件(社内の意思決定プロセス、予算規模など)も記録すべき重要な情報です。過去に他社製品を使っていた経験があるか、どのような運用体制を想定しているかなども含めて聞き出すことで、提案内容の具体性と説得力を高めることができます。
クロージング
提案を終え、契約に向けたすり合わせが始まると、今度は稟議や決裁プロセスへの対応が求められます。
この段階で活用すべき情報は、決裁者の氏名・立場、社内での意思決定フロー、見積条件の確認状況などです。例えば、「営業担当者には前向きな反応があったが、経理部門のコスト意識が厳しい」といった温度感の違いも含めて記録されていれば、どこにボトルネックがあるかを把握したうえでの追加アクション(価格条件の再提示、事例資料の送付など)が可能になります。
成約
契約成立後は、導入・サポートフェーズへのスムーズに移行する必要があります。このフェーズで重視すべき情報は、契約日・導入開始日、顧客の期待値、導入目的、連携部署の確認などです。
「なぜこのサービスを選んだのか」「どういった課題を解決したいのか」が明確であれば、カスタマーサクセスチームも目的に沿ったサポート設計ができ、逆にこの情報が不足していると、導入直後の顧客体験にギャップが生まれ、早期離脱のリスクにもつながるので、情報をしっかりと整理して残しておく必要があります。
営業プロセスに情報活用を行える仕組みを設計する
各営業プロセスでどのような情報が必要なのか、どのように活用するとよいかを整理した後は、その情報が実際の現場で活用される状態を作らないといけません。
アクションの起点に情報を置く
営業プロセスにおけるあらゆる行動の出発点に、「情報の確認」や「履歴のレビュー」を必ず組み込むことで、情報活用が営業活動に自然に根づいていきます。例えば、
- アポ獲得のアクションを起こす前に、過去の接点履歴やWebサイト閲覧履歴を確認して、最適な接触タイミングとトーク内容を判断する。
- 提案準備の前に、顧客の課題メモや担当者の発言ログを読み返すことで、より具体的で的を射た提案資料を作成する。
- このように、営業フェーズごとに「まず情報を見る」ことをルーティン化することで、情報は「参考」ではなく「判断の基準」として定着します。
情報とプロセスをつなぐ“チェックポイント”を設ける
情報を活用できる状態にするには、プロセスの中に「情報が整っていること」を条件として組み込むのも有効です。
- 商談フェーズに進むには「企業情報・接点履歴・購買温度感」がすべて登録されていることを要件にする
- 提案フェーズでは「決裁者情報・稟議プロセス」が登録されていなければ次ステージへ進めないようCRMで設計する
このように、フェーズ進行に必要な情報を定義し、それをプロセス上の“通過点”として設計することで、営業担当は自然と情報の記録・確認を行うようになります。
日報・定例ミーティングにも「情報活用」を組み込む
営業情報の蓄積と活用を日常の業務フローに定着させるには、マネジメントやチーム共有の場にも“情報ベース”の文化を組み込むことが効果的です。
- 日報の記載フォーマットに「本日のヒアリング情報」「顧客の反応と次アクション」をセットで記入する項目を設ける
- 定例ミーティングでは、CRMのダッシュボードをもとに進捗確認し、「どの情報をもとに、どんな提案を行ったか」を共有する時間を設ける
こうした運用を通じて、情報が“記録されるだけのもの”から“チームで議論し、活かされる資産”へと変わっていきます。
顧客管理を仕組みとして定着させるなら、ツールの活用が効果的
Excelやスプレッドシートを使った顧客情報の整理や共有がある程度軌道に乗ってきたら、次に取り組むべきは「情報の活用を業務の中に定着させること」です。属人化を防ぎ、営業活動をチームで再現性のあるプロセスとして回していくためには、手作業による管理には限界があります。ここで有効なのが、CRMやSFAなどのツールです。ここでは、中小企業が無理なく導入するための考え方と進め方を見ていきます。
デジタルツールの活用が中小企業の武器になる
CRMツールというと、「大企業が使うもの」というイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際には、中小企業こそ積極的に活用すべきツールです。小規模な組織では特に、担当者の勘や経験、口頭ベースでの情報共有に頼る営業スタイルでは、属人化が進みやすく、チームとしての一貫性や再現性が失われやすいものです。人手や時間といったリソースが限られているからこそ、ツールによる業務の自動化や仕組み化の恩恵が非常に大きくなります。
CRMやSFAツールを導入することで、「誰がどの案件を担当しているのか」「次に取るべきアクションは何か」といった情報をツール上で明確に整理できるようになるため、情報共有・案件管理・進捗フォローが自然と自動化されます。また、商談の履歴や対応の記録が一元管理されることで、急な担当変更やフォローアップの際にも、誰もが同じ情報をもとに対応することができます。その結果、属人化の解消とともに、チームで成果を上げる営業体制が構築されます。
スモールスタートでCRM/SFA導入を検討してみる
CRMを導入する際は、「すべての機能を最初から使いこなそう」と意気込む必要はありません。むしろ重要なのは、使いやすさと現場への定着です。最初は、案件管理や対応履歴の記録といった基本的な項目に絞って運用を始めることで、導入のハードルを下げることができます。
無料プランのあるCRMを使って「対応履歴」「次回アクション」「商談ステータス」など最低限の情報を記録・共有するだけでも、Excelでの管理よりも格段に運用の精度が上がります。業務フローに合わせて段階的に機能を拡張すれば、無理なく自然に活用の幅を広げていくことができます。何より重要なのは、「誰が、いつ、どのように情報を入力するか」「どこを見れば必要な情報が確認できるか」などのシンプルなルールで“現場で無理なく回せる”運用状態をつくることです。