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中堅企業における顧客管理の現状と課題
中小企業では、顧客情報の一元管理や属人化の解消といった課題が中心でしたが、中堅企業になると営業組織が拡大し、新たな問題が顕在化してきます。
営業チームの人数や拠点が増えるにつれて、これまで通りの管理方法では限界が生じ、「情報の分断」「営業活動の見えにくさ」「営業プロセスのばらつき」といった課題が表面化してきます。
ここでは、中堅企業に特有の顧客管理上の課題を、代表的な3つの視点から整理していきます。
チーム・拠点が増えることで情報の分断が起きる
営業チームが複数に分かれると、それぞれの管理スタイルやツールの使い方が異なり、顧客情報がチームごとに閉じた状態になりやすくなります。接点履歴や商談内容が社内で共有されないまま営業活動が進んでしまうと、同じ企業に別のチームが重複してアプローチしたり、過去の経緯を知らずに提案したりするミスが発生します。
例えば、本社営業と地方拠点の営業が同じ企業に個別にアプローチしていたものの、お互いの活動を把握しておらず、内容が食い違ったり、同じ提案が別のタイミングで繰り返してしまったりといったケースが考えられます。
このような情報の分断は、顧客から「社内で連携ができていない会社だ」という印象をもたれ、信頼を損なう結果になりかねません。また、過去の失注理由や商談の経緯が他チームに共有されていないと、同じ失敗を繰り返す原因にもなります。
営業活動の進捗や成果が見えにくくなる
営業担当者ごとに、顧客情報の記録方法や管理の粒度が異なると、どの案件がどこまで進んでいるのか、チーム全体でどの程度成果が出ているのか、といった全体像を把握することが難しくなります。
例えば、ある担当者はヒアリング内容を詳細に記録しているのに対し、別の担当者は最小限のメモしか残していないといったケースがあります。さらに、案件フェーズ(提案中/クロージング中など)の判断基準が人によって異なっていると、マネージャーが正確な進捗を把握できない事態になります。実際には「条件調整中」の段階であるにもかかわらず、「受注間近」と報告されていると、現場とマネージャーの間に認識のズレが生まれ、営業判断を誤るといったリスクも高まります。
営業プロセスが属人的になり、成果のばらつきが生まれる
営業手法が個々の担当者の経験やスキルに依存していると、成果にばらつきが生まれやすくなります。複数の営業チームが存在する中堅企業の営業現場では、どのようなプロセスでヒアリングを行い、どのように提案やクロージングへと進めているのかがチームによってまちまちで、営業活動が属人的になりやすい傾向があります。そうした属人的な営業は、成果が出ていても再現性がなく、ノウハウが組織に蓄積されにくいという問題を生みます。この結果、新人や若手の育成も個別対応に終始してしまい、組織としての営業力の底上げが進みにくくなります。
営業プロセスの標準化は、マネジメントの視点からも重要です。共通の進め方や進捗判断の基準がないと、チーム全体の動きを把握しにくく、改善や支援のタイミングも遅れてしまいます。
営業プロセスを標準化し、顧客管理を全社で機能させる
「情報の分断」や「営業成果のばらつき」といった課題を解決し、顧客情報を全体で活用できる状態をつくるためには、営業プロセスの標準化が不可欠です。
ここでの標準化とは、単なる営業フローの整備ではなく、どの段階で・どんな情報を記録し・どう判断し・次のアクションにつなげていくかという一連の営業活動を、組織全体で共通化する取り組みです。
そのための前提となるのが、「営業フェーズ」と「営業ステージ」という2つの考え方です。これらは営業活動を体系的に捉え、共通言語としてのプロセス管理を実現するための基本単位となります。まずは、営業プロセスを構造化して捉えるために、この2つの概念を整理します。
営業プロセスの基本
営業プロセスを標準化するには、まず「営業フェーズ」と「営業ステージ」という2つの視点を明確に定義し、使い分けることが重要です。
この2つは似た概念に見えますが、フェーズは営業活動全体の流れを段階的に捉える枠組みであり、ステージは個別案件の進捗を具体的に把握するための管理単位です。
営業フェーズ:営業全体を段階で捉えるための枠組み
営業フェーズとは、営業活動全体をいくつかの大きな段階に分けて整理するための枠組みです。見込み客との初回接点から始まり、ヒアリング、提案、契約締結、そして契約後のフォローアップに至るまで、営業プロセスには一定の流れがあります。営業フェーズはその流れを段階的に区切り、それぞれに名称と意味を持たせることで、営業活動の全体像を俯瞰できるようにする考え方です。
営業フェーズを組織内で共通言語として定義しておくことで、各案件が営業プロセスのどの段階にあるのかを誰もが把握しやすくなります。また、マネージャーは進捗の偏りやボトルネックを可視化しやすくなり、各段階で必要なアクションや情報の整理も容易になります。
つまり営業フェーズは、個々の営業活動をばらばらに捉えるのではなく、共通のプロセスとして一貫性を持って管理・改善するための土台となる考え方です。
営業ステージ:個別案件の進捗状況を具体的に管理する単位
一方、営業ステージとは、営業プロセスの中で、個別の案件が現在どの状態にあるのかを、より具体的に把握・管理するための単位です。営業フェーズが営業活動の全体の流れを段階的に捉える枠組みであるのに対して、営業ステージはその中での「現在地」を示すものだと言えます。
例えば、同じ「提案フェーズ」にある案件でも、実際には「資料作成中」のものもあれば「提案済み・反応待ち」のものもあるといったように、進捗には違いがあります。営業ステージを定義することで、こうした差異を明確にし、どの案件がどの状態にあり、次に何をすべきかをチーム全体で把握できるようになります。
営業ステージを適切に活用することで、現場の営業担当者だけでなく、マネージャーや関連部門も含めて、案件の進捗状況を正確かつ具体的に把握し、組織として一貫した対応を行うための土台をつくることができます。
営業フェーズを定義する
ここでは、営業フェーズという考え方を、中堅企業においてどのように定義し、組織全体で共通認識として機能させていくかを具体的に見ていきます。
中堅企業では、営業担当が複数のチームや拠点にまたがっているケースが多く、案件の進捗状況や対応履歴が部署ごとに分断されやすくなります。
そのため、「どの案件がどの段階にあるのか」「次に誰が何をすべきか」といった情報を、組織全体で正確に把握できる状態をつくることが重要です。以下は、中堅企業でよく見られる6つの営業フェーズの例です。
フェーズ | 定義・内容 |
アプローチ | 初回接点を取る段階。アポ取得のための電話・メール・訪問などを行う。 |
ヒアリング | 顧客の課題、要望、予算、導入時期などを把握するための聞き取りを行う段階。 |
提案 | ヒアリング内容をもとに、提案書・見積書の作成、プレゼンなど具体的な提案を行う段階。 |
クロージング | 契約条件のすり合わせ、価格・スケジュール調整、稟議対応などを行い、契約締結に向けて進める段階。 |
成約 | 双方合意により契約が締結された段階。受注処理や社内の引き継ぎが行われる。 |
フォロー | 初回納品や導入対応、カスタマーサクセス部門への連携、関係継続の支援などを行う段階。 |
こうした営業フェーズをあらかじめ定義しておくことで、「今月、提案フェーズにある案件は何件か」「クロージングで止まっている案件がどれだけあるか」といった情報を、共通の基準で可視化できるようになります。
営業活動を属人化させず、組織として一貫したプロセスで管理するための第一歩が、フェーズの明確な定義です。なお、ここで整理したフェーズ分類はあくまでも一例であり、自社の営業プロセスやビジネスモデルに応じて適宜カスタマイズしていくことが重要です。
営業ステージを定義する
営業ステージを設計する際のポイントは、各フェーズごとに「進捗」を細分化して、誰が見ても同じ判断ができる状態をつくることです。また、CRM/SFAなどのツールで入力・活用しやすいように、判断しやすく再現性のある項目にすることも重要です。
以下に、ステージの設計例を示します。
フェーズ | ステージ例 |
アプローチ |
|
ヒアリング |
|
提案 |
|
クロージング |
|
成約 |
|
フォロー |
|
実際にステージを設計する際は、自社の営業スタイルや管理体制、CRM/SFAの運用状況に合わせて柔軟に調整することが重要です。営業ステージを適切に活用すれば、現場の営業担当者だけでなく、マネージャーや関連部門も含めて、案件の進捗状況を正確かつ具体的に把握できるようになるでしょう。
営業ステージごとに管理すべき情報を整理する
次に、「そのステージでどのような情報を記録・管理すべきか」を明確にし、誰が見ても営業の進捗や状況が正しく把握できる状態をつくります。
アプローチ
初回のアプローチ段階では、見込み客との接点状況や基本情報を正確に記録することが重要です。
- リードの流入経路(展示会、Web、紹介など)
- 初回接点のあった日付・接点の手段(メール・電話など)
- 担当者の基本情報(氏名、役職、連絡先)
- 顧客の初期反応や興味のあるトピック(トーク履歴)
ヒアリング
商談化に向けて必要な要素(課題・決裁者・予算・導入時期)を整理し、案件の質を見極めるフェーズです。
- 顧客の課題やニーズ(できる限り顧客の言葉で)
- BANT情報(予算・決裁者・導入時期・必要性)の取得状況
- ヒアリング内容の記録(CRMへのメモや議事録)
アポ獲得
商談をスムーズに進めるための準備段階として、面談の基本情報や参加者の調整内容を正確に管理します。
- アポイント日程と場所(オンライン/訪問)
- 商談の目的や議題(確認済みの内容を含む)
- 参加予定者(顧客側・自社側の関係者)
提案
提案フェーズでは、顧客の課題に対してどのような提案を行い、それに対して顧客がどう反応したかを記録・共有することが重要です。
- 提案内容の要点(どの課題に、どんな解決策を提示したか)
- 顧客の反応・質問・評価(提案に対する印象や懸念点)
- 修正依頼の有無とその対応内容(どこを調整したか、どう再提案したか)
クロージング
クロージングフェーズでは、契約に向けての条件面の詰めや、顧客側の社内プロセス(稟議・決裁など)を踏まえた交渉・調整が中心となります。
- 顧客側での稟議・決裁の進捗状況(どこで止まっているか、誰が関与しているか)
- 金額・納期・支払条件など、調整が必要な契約条件の論点
- 成約を阻む要因や顧客の懸念点
- 営業側でとるべきフォローアクション(稟議資料の補助、再見積など)
成約
契約確定後は、社内チームへのスムーズな引き継ぎと初回対応の準備を進めます。
- 成約の決め手となったポイント(顧客が何に価値を感じたか)
- 契約の最終内容(価格、提供内容、期間、条件などの要点)
- 顧客の期待値や導入時に注意すべき背景情報
- 導入担当やCS部門への引き継ぎ内容(目的、ゴール、注意点)
- 初回対応のスケジュール・責任者の確認(納品・設定・オンボーディングなど)
フォロー
導入初期対応や顧客との関係継続に向けた支援活動を記録・管理することで、カスタマーサクセスへとつなげます。
- 初回納品・導入対応の進捗
- サポート体制・連絡先の案内状況
- 初期満足度の確認(アンケート、ヒアリング)
- 継続利用・アップセルの見込みや次回提案予定
- トラブルや対応履歴とそのフォロー内容
上記のように、営業ステージごとに必要な情報を明文化しておくことで、営業活動の「質」を安定させることができ、マネジメントや育成、データ活用にもつながります。
営業プロセスの移行基準を統一する
営業フェーズやステージを定義するだけでは、進捗状況の判断にどうしても個人差が出てしまう恐れがあります。そこで必要になるのが「移行基準」です。これは、あるフェーズから次のフェーズに進めると判断するための「共通ルール」であり、営業現場の判断のばらつきを防ぐために必要です。
現場では、案件の進捗を営業担当者の感覚や経験に頼ってしまい、「もうクロージングに入った」と報告されていても、実際にはまだ見積書すら提出されていない、というようなズレが起こることもあります。
こうしたズレや曖昧さを防ぐには、チーム全体で共通の移行基準を持ち、それに基づいてフェーズの進捗を判断する仕組みが必要です。以下に、中堅企業の営業プロセスにおける代表的な移行基準の例を示します。
フェーズ遷移 | 完了とみなすための基準 |
アプローチ→ヒアリング | 初回接点が完了し、担当者名・連絡先・会社情報の把握ができた上で、ヒアリングの実施が始まっている。 |
ヒアリング→提案 | 初回打ち合わせを実施し、提案資料または見積書を送付済み。顧客のフィードバックを待っている段階。 |
提案→クロージング | 顧客と価格や条件交渉が始まり、導入の具体的な検討に入っている。稟議資料の作成や契約書の調整が進んでいる場合も含む。 |
クロージング→成約 | 契約条件が双方合意に至り、契約書が正式に締結された。社内への引き継ぎ準備が始まっている。 |
このように明文化しておくことで、進捗報告の正確さが上がるだけでなく、営業現場とマネジメントの間にある『認識のギャップ』を大きく減らすことができます。
標準プロセスがマネジメントと改善を可能にする
営業活動を改善するために本当に必要なのは、「結果」だけを見るのではなく、その結果に至るまでのプロセスを捉えることです。
前のステップで設計した「営業フェーズ」「営業ステージ」、その移行基準を標準化することで、営業プロセスを構造的に分解・整理できるようになります。「どの案件がどの段階にあるのか」「なぜこのフェーズで止まっているのか」「次に何をすべきか」といった状態を可視化し、停滞しているポイントを特定できれば、その原因を分析し、具体的な改善策を打つことが可能になります。
このプロセスが組織内で仕組みとして機能すれば、再現性と改善性を備えられる営業活動体制を作ることができるでしょう。
営業活動で成果につながる顧客情報の活かし方
営業活動で成果を上げていくためには、過去の活動履歴や顧客の反応といった情報を蓄積し、アクションに活かす仕組みが必要です。ここでは、営業活動の中で得た顧客情報をどのように活用すれば、営業成果の再現性を高めていけるのかを、4つの視点から整理していきます。
営業プロセスと顧客情報をひも付けて管理する
中堅企業における顧客情報の管理では、個々の営業担当のやり方に任せるのではなく、組織全体で標準化された管理の仕組みを持つことが求められます。特に、営業フェーズやステージに沿って、どの段階でどの情報を記録・更新するのかを明確に定義しておくことが重要です。
例えば、アプローチ段階では接点の発生源や反応の有無を記録します。ヒアリング段階では課題・予算・決裁者情報(いわゆるBANT情報)の把握が重要です。提案段階では、提案内容や顧客からの反応を記録し、クロージング段階では見積提出日や契約条件の調整状況を正確に管理します。各フェーズで管理すべき情報は異なるため、あらかじめ入力ルールや記録フォーマットを設計しておくことで、チーム全体での情報共有や判断がスムーズになります。
さらに、このような構造が整っていないと、CRMやSFAツールを導入しても「何を入力すればいいか分からない」「情報がバラバラで使えない」といった運用上の課題が生じがちです。しかし、プロセスに沿った情報設計ができていれば、ツールの入力も自然と業務と連動し、データが蓄積され、分析やマネジメントにも活かしやすくなります。
営業プロセスにひも付いた顧客情報の管理は、単なる「記録」ではなく、営業活動全体を可視化し、再現性と改善性を生み出すための土台です。個人の勘や経験に頼らず、組織として顧客との向き合い方を標準化するためにも、この仕組みを設計することが不可欠です。
商談内容・反応・ステータスも顧客情報として蓄積する
中小企業では「記録を残すこと」自体が営業活動の抜け漏れ防止の役割を果たしていましたが、中堅企業ではそれに加えて「蓄積された情報を営業成果にどう結びつけるか」が問われるようになります。
特に重要なのが、以下のような商談に関する情報やステータスを、案件単位で確実に蓄積することです。
- 商談の内容(議事録、トークの要点、顧客の反応など)
- 進捗の状態(営業フェーズ/ステージ)
- 提案のタイミングと内容、見積提出の有無
- 顧客の温度感や決裁状況
- 次回アクション予定とその期限
属人的に記録されていた情報をチームで活用できるようにするには、「どの項目を、どのように記録するか」をあらかじめ定義しておく必要があります。記録の粒度や表現がバラバラな状態では、マネージャーによる判断や他部門との連携に支障をきたします。また、選択式の項目を設けて記録形式を統一すると、後の分析やレポート作成にも活かしやすくなるため、導入を検討すると良いでしょう。以下はその一例です。
【入力例】
- 顧客の初期反応(選択式):前向き/検討中/やや慎重/否定的
※フリーテキスト:課長は前向きだが、決裁者の反応は未確認 - 競合比較の有無(選択式):あり/なし
※フリーテキスト:A社、重視する点:サポート体制、初期費用 - 想定されるハードル(選択式)稟議/導入リスク/価格/不明明
※フリーテキスト:稟議が2段階必要、ITリテラシーにバラつきあり - 次のアクション(選択式):予定あり/未定
※フリーテキスト:4/18に競合比較表送付予定、4/22週に部長との面談を打診
このように、選択式の項目で共通の基準を整備しつつ、フリーテキストで顧客特有のニュアンスを補足することで、チーム全体での情報共有と分析の質が向上します。
顧客の状態を可視化して営業判断に活かす
営業活動をチームで推進していく中で、重要なのは、マネージャーやチームリーダーが「どの案件にいつ、どう介入すべきか」を適切に判断できる状態を整えることです。そのためには、顧客や案件の状態をリアルタイムかつ客観的に把握できる仕組みが必要です。
特に中堅企業では、複数の営業担当や拠点で案件が並行して進んでいる場合が多いため、感覚に頼った判断では対応の優先順位やタイミングを見誤るリスクが高まります。以下のような観点で顧客・案件情報を可視化することで、マネジメントの精度を高めることができます。
- ステージ別の滞留案件を把握する
どのフェーズやステージに案件が集中し、どこで止まっているかを分析することで、ボトルネックの特定とフォロー優先度の判断が可能になります。 - 次回アクションが未設定の案件を抽出する
フォロー漏れや放置案件を未然に防ぎ、適切なタイミングでのアプローチを実現します。 - ホット・ウォーム・コールドなどの優先度別に整理する
顧客の温度感や決裁状況に応じた管理を行い、注力すべき案件を明確にします。 - ダッシュボードで視覚的に管理する
CRM/SFAのレポートやダッシュボードを活用して、進捗や対応状況を一目で把握できる環境を整えることが重要です。
このように、顧客の状態をフェーズやステージ、優先度などの観点で整理・可視化することで、営業マネジメントの質は大きく向上します。さらに、チーム全体でフォローが必要な案件を早期に共有し、適切な支援体制を組むことにもつながります。
営業チームで顧客情報を共有・活用する仕組みをつくる
営業プロセスを標準化し、顧客情報を蓄積・整理できる状態が整ったら、次に必要なのは、その情報を「記録するだけ」で終わらせず、「共有・判断・活用」していくための運用設計です。営業チームで顧客情報を共有・活用する仕組みをつくるための2つの視点をここで挙げます。
シンプルなルールで継続できる運用を目指す
営業現場で顧客情報の入力・更新を継続してもらうには、「誰でも・迷わず・無理なく」続けられるシンプルな運用ルールを設計することが重要です。特に中堅企業では、営業担当者のITリテラシーや経験値にばらつきがあることが多く、ルールが複雑すぎると形骸化し、結局使われなくなる恐れがあります。
例えば、「アプローチ」ステージでは接点の記録、「ヒアリング」ステージでBANT情報、「提案」ステージでは提案内容と反応など、各フェーズごとに必須で記録すべき項目を明確に定義し、必須にする工夫が有効です。また、ヒアリング情報は「課題」「導入理由」「決裁者」「予算」「導入時期」といった5項目程度に限定し、それぞれ「なぜこの情報が必要なのか」をあらかじめ現場に落とし込み理解させておくことで、現場の納得感と入力の質を両立できます。
さらに、運用ルールを設計する上では、「マネジメント側がみたい情報」と「現場が無理なく記録できる仕組み」の両立も重要です。例えば、マネジメント層は、
- どの案件がどのフェーズで止まっているのか
- 誰が、どのステージで成果につまずいているのか
- 全体のKPIや進捗をどう可視化できるか
といった全体を俯瞰する情報を求めます。一方、現場の営業担当は、
- 商談準備や後追いにすぐ使えるよう、情報が見やすく整理されていること
- 入力項目が多すぎず、日常業務の中で無理なく記録できること
といった実務に使える・続けられる仕組みを重視します。このように、管理側の「見たい指標」と現場側の「使いやすさ」の両方を意識して、情報の粒度・入力方法・表示形式などを設計するようにしましょう。
チームで顧客情報を活用する文化をつくる
顧客情報を営業チーム全体で「見て」「話して」「判断に使う」という活用の文化があってこそ、情報活用の価値が生まれます。
その文化作りとして有効なのが、営業会議に顧客情報の活用を組み込むことです。
例えば、週次や月次の営業会議で、CRM/SFAツールのダッシュボードや案件一覧を画面共有しながら「注力すべき案件」「停滞している案件」「ヒアリング情報が不足している案件」などを確認し、チームで次のアクションを考えるようにすれば、情報は「見るもの」へと変わります。フェーズやステージの分布、BANT情報の取得率なども指標として取り上げることで、定量的な振り返りができ、全体の営業精度が高まるでしょう。
また、成功事例や失注事例をチームで共有・言語化することも、ナレッジを蓄積するうえで重要です。例えば、成果につながったヒアリングの質問例、提案時の切り口、クロージング時の説得材料など、実際の営業現場での“気づき”をチームで共有します。これをドキュメントや社内Wiki、朝会・夕会で展開することで、情報が属人化せず、再現性のある営業スタイルとして定着していくでしょう。一方で、失注理由や失敗の学びについても、「反省」ではなく「次につなげる材料」として共有する姿勢が重要です。
このように、情報を記録するだけでなく、活用し、学び合い、成果につなげる文化を育てることが、チームで成果を生み出せる営業組織への成長につながります。
顧客管理を全社的に活用する
社内で営業プロセスを標準化し、顧客情報をチーム全体で活用できるようになったら、次のステップとして、顧客情報を営業部門にとどめず、全社的な資産として活用する視点が求められるようになります。これは、将来的に事業が拡大し、組織がより大きく・複雑化する可能性を見据え、全社で顧客情報を活用していく仕組みをこの段階から準備しておく必要があります。ここでは、そのために押さえておくべき3つの視点を整理します。
営業以外の部門との情報連携が求められるようになる
営業部門が収集・管理している顧客情報は、商談や受注活動に限らず、その後の導入や運用、サポートの質にも大きく影響します。顧客情報は営業部門やマーケティング部門だけでなく、サポート部門、カスタマーサクセス、技術部門など、さまざまな部門で活用できる共通の情報として捉える必要があります。
例えば、営業がヒアリングした「導入の背景」「顧客の課題」「決裁者情報」などが、プロジェクトチームやカスタマーサクセス、カスタマーサポートに共有されていれば、導入初期の対応やサポートが的確に行えるようになります。
逆に、技術部門やカスタマーサクセスが「実際の運用状況」「顧客からのフィードバック」「トラブル履歴」などを営業にフィードバックし、次回の提案に活かせるようになれば、クロスセルやアップセルの成功確率も高まるでしょう。
こうした営業と他部門との双方向の情報連携は、顧客に対する提供価値を高め、企業全体で顧客と向き合う体制作りにも寄与します。
顧客接点履歴を全社で活かす仕組みをつくる
顧客の立場から見れば、担当者が誰であっても「ひとつの企業として一貫した対応をしてくれる」ことが理想です。しかし、社内で情報が分断されていると、「以前伝えたはずの内容が共有されていない」「部署ごとに言っていることが違う」といったすれ違いが起こりやすくなり、企業への信頼を損ねる原因になります。
こうした事態を防ぐには、営業活動で得られたヒアリング内容やサポート履歴、契約条件の経緯など、顧客接点に関する情報を一元化し、部門を越えてスムーズに共有・引き継ぎできる仕組みが不可欠です。そのためには、CRM/SFAツールで各部門が顧客接点情報を随時更新し、商談履歴や問い合わせ履歴を誰でも確認できる状態を整備するなど、ツールの活用を前提とした仕組みづくりが重要になるでしょう。
このような仕組みが整っていれば、誰が対応しても過去の経緯や要望を踏まえた一貫した対応が可能になります。結果として、顧客は「この会社は私のことをちゃんと分かってくれている」と感じ、信頼感を持って取引を続けてくれるようになります。