導入検討フェーズで押さえるべきポイント

CRM導入がうまくいくかどうかは、実は「導入検討フェーズ」でほぼ決まります。ただ何となく製品を比較して選ぶのではなく、自社の課題整理、要件定義、選定基準の設計までをしっかり行うことが、導入後のスムーズな運用につながります。このレッスンでは、導入検討フェーズで押さえておくべき検討ステップと進め方を具体的に整理します。

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導入検討フェーズで押さえるべきポイント
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なぜ導入検討フェーズが重要なのか

CRMを導入する際、最も軽視されがちなのが「導入前の検討フェーズ」です。しかし実際には、この段階での準備や判断が、CRM導入の成否を大きく左右します。

CRM導入をうまく実行している企業の多くは、事前に目的・要件・現場の声・社内の期待値を丁寧に整理したうえで、自社に合った選定と設計を行っています。以下では、導入検討フェーズが重要である理由を、3つの視点から整理します。

ツール選びを誤ると、その後の運用が破綻する

CRMツールは数多くの選択肢があり、製品ごとに特徴や強みが異なります。にもかかわらず、「有名だから」「価格が安かったから」「なんとなくよさそう」といった曖昧な理由で選定してしまうと、導入後にさまざまな問題が発生します。例えば、

  • 想定していた機能がなかった
  • 営業の現場に合わず、誰も使ってくれない
  • 管理が複雑で、運用に工数がかかる
  • カスタマイズが難しく、自社業務にフィットしない

といった問題です。こうなると、せっかく導入しても形骸化し、再検討・乗り換えというコストのかかる対応を迫られることになります。

導入フェーズで「どの製品を選ぶか」よりも前に、「自社に必要な機能や条件は何か」「現場が実際に使える設計になっているか」という視点で選定基準を明確にしておく必要があります。

要件が曖昧なまま選ぶと、現場にフィットしないツールになる

CRM導入が失敗する大きな原因の一つが、「現場の業務要件が整理されないまま製品を選んでしまうこと」です。特にありがちなのが、「とりあえず顧客情報が見られればいい」といったざっくりとした期待のまま導入を進めてしまうケースです。しかし実際には、顧客情報と一口に言っても、

  • どんな情報を、どの粒度で管理したいのか
  • 商談や対応履歴をどのような単位で紐付けるのか
  • 誰が、どのタイミングで、何を入力するのか

といった具体的な要件がなければ、現場の業務にマッチしません。結果として、

  • 入力が面倒になり、使われなくなる
  • 情報が分断され、検索性が悪くなる
  • レポートが活用されず、経営の意思決定にも結びつかない

といった状態に陥ります。だからこそ、導入前に「CRMをどう使いたいのか?」という業務イメージを現場レベルで具体化しておくことが不可欠です。

社内調整・期待値コントロールのスタート地点でもある

CRM導入は、単なるシステム導入ではなく、業務改革の一つです。そのため、営業、マーケティング、カスタマーサポート、IT、経営企画など、複数の部門が関わる「全社的なプロジェクト」となります。

このとき、導入検討フェーズで調整を怠ると、以下のような問題が起こります。

  • 部門間で目的や期待がバラバラ
  • IT部門がセキュリティの懸念を理由にブレーキをかける
  • 現場が「また面倒な仕組みが入る」とネガティブになる
  • 経営層が「なぜこんなに時間がかかるのか」と不信感を抱く

これらを避けるには、導入検討段階で関係者の意見を集め、目的・要件・優先度をすり合わせるプロセスが必要です。ここを丁寧に進めておけば、導入後の意思統一や合意形成もスムーズになります。

導入検討フェーズで最初にやるべきこと

CRM導入を成功させるためには、いきなり製品を探したり比較検討したりするのではなく、「社内の現状把握」と「導入目的の再確認」から始める必要があります。

なぜなら、どんなに高機能なCRMツールを導入しても、それが自社の課題に合っていなければ、現場に定着せず成果にはつながらないからです。ここでは、CRM導入検討の最初にやるべき重要な2つのステップを紹介します。

現状の業務フローと課題を棚卸しする

ツール導入に先立って、まずは自社の営業・マーケティング・顧客対応業務が、どのように行われているのかを整理する必要があります。

特に見落とされがちなのが、「業務フローごとに具体的にどこで困っているのか」を明確にすることです。ここが曖昧だと、機能要件の設定や製品選定時に迷いが生じてしまいます。

まずは以下のような観点から、現場の声を拾い、課題をリストアップしてみましょう。

<整理の観点:営業活動・顧客管理の棚卸し>

  • 営業活動の流れはどのようなステップで進んでいるか?
  • 顧客情報はどこに、誰が、どのように管理しているか?(Excel/メール/名刺など)
  • 商談の進捗や履歴は、どう記録・共有されているか?
  • 引き継ぎや連携がうまくいっていない場面はどこか?
  • マネージャーはどのように案件の状況を把握しているか?

これらを洗い出すことで、CRMに求める役割や、導入後に改善したいポイントが明確になってきます。例えば、以下のような課題が見えてくるはずです。

  • 営業ごとに管理形式がバラバラで情報が属人化している
  • 過去の商談履歴が追えず、提案が毎回リセットされている
  • 顧客対応履歴が営業とCS間で共有されていない
  • 報告資料作成に毎回多大な時間がかかっている

これらの情報を整理したうえで初めて、「CRMをどう活用すれば、これらの課題が解決できるのか?」という視点に立つことができます。

導入目的とゴールを再確認する

レッスン1でも整理したように、CRM導入をスムーズに進めるに最も重要なのは、「明確な目的を持って進める」ことが重要です。ただ、いざ製品を選定しようとすると、「何を重視すべきか」がぶれてくるケースも多くあります。

そのため、導入検討フェーズの早い段階で、改めて自社にとっての導入目的とゴールを具体化しておくことが重要です。

例えば、営業現場の属人化が課題であれば、「顧客情報の一元化と案件の見える化」を目的にし、商談数や受注率の向上がテーマであれば、「営業活動の可視化とデータ分析の仕組み化」を目的にし、自社の課題にあわせて目的を言語化しておくと良いでしょう。

さらに、導入後に目指す「理想状態」も、具体的なイメージで表現しておくと、チーム全体で共通認識を持ちやすくなります。例えば、

  • 誰が見ても、顧客の状態・過去のやり取りがすぐわかる
  • 案件が営業チームで共有され、フォローの抜け漏れがない
  • 会議のための報告資料がCRMから自動で出せる
  • 営業部門とマーケティング部門で、ホットリード情報をリアルタイムに共有できる

このように、ツール導入によって「業務がどう変わるか」というBefore/Afterのイメージを具体的に描くことが重要です。

また、目的と合わせて「いつまでに、どこまで実現したいか」という時期や範囲も整理しておくと、導入スケジュールや選定選定の優先順位を決める際にも役立ちます。

CRMに求める要件を定義する

CRM導入にあたって、 「どの製品を選ぶか」より先に、自社がCRMに何を求めるのかを整理しておく必要があります。

現場の業務や今後どのように活用していきたいかを踏まえて要件を明確にしておけば、製品選定の基準が明らかになり、導入後のギャップやトラブルも大きく減らせます。ここでは、CRMに求める要件を以下の3つの視点で整理します。

業務機能要件を整理する(必須/あれば便利)

まずは、CRMでどんな業務を実現したいのかを明確にすることが基本です。このとき、「絶対に必要なもの(Must)」と「あると便利なもの(Want)」を分けて整理すると、製品比較のときに冷静に判断しやすくなります。

主な業務機能と整理の一例

機能

説明

必須 or あれば便利

顧客情報管理

企業・担当者の基本情報、対応履歴などを一元管理する

必須

案件・商談管理

商談の進捗状況や提案内容、見積などを管理する

必須

リード管理/ナーチャリング支援

見込み顧客の情報をステージごとに管理し、営業への引き渡しを促進

必須

タスク・リマインダー機能

次回アクションの登録、アラート通知など

あれば便利

レポート・ダッシュボード

商談数、受注率などを可視化し、分析に使える

必須(特にマネージャー視点では)

メール・フォーム連携

ウェブ問い合わせやメール開封情報と紐付ける

あれば便利

実際に導入してから「これが足りなかった」となることを防ぐためにも、現場の業務フローごとに必要な機能を具体的に洗い出し、一覧化しておきましょう。

システム要件を整理する(IT部門・情シス視点)

CRMは「営業やマーケティングが使う業務ツール」というだけではなく、社内システムの一部として、IT・情報システム部門の視点でも確認すべきことがあります。導入後に「情シスから待ったがかかる」といったトラブルを避けるためにも、技術的な要件を事前に整理しておきましょう。主に次のようなポイントがあります。

システム構成に関する要件

  • クラウド型 or オンプレミス型
    一般的にはクラウド型が主流だが、セキュリティポリシーやインフラ構成によっては検討が必要
  • API/外部ツール連携可否
    MA(マーケティングオートメーション)、会計ソフト、チャットツールなどとの連携が必要な場合は、API対応やノーコード連携の可否を確認する
  • セキュリティ要件
    アクセス権限、IP制限、2段階認証、操作ログの取得など、自社のセキュリティ方針に準拠できるか

情シス部門を巻き込むのは、選定フェーズだけでなく導入以降の運用・保守、社内展開にも関わるため、検討初期の段階から関与させておくことがポイントです。

運用要件を整理する(管理者・現場視点)

CRMを導入したあと、日常の運用を円滑に進められるように、管理者と現場ユーザーの両方の視点から、運用に求める条件を事前に定義しておく必要もありますす。

どちらか一方の視点に偏ると、「現場は使いにくい」「管理が煩雑すぎる」といった導入後のギャップが生じやすくなります。ここでは、それぞれの視点で確認すべき代表的な要件を整理します。

管理者目線での確認ポイント

管理者にとって重要なのは、長く・安定して・負担なくCRMを運用できるかどうかです。以下のようなポイントを事前に確認しておきましょう。

  • ユーザー管理と権限設定の柔軟性
    ユーザーの追加・削除が簡単に行えるか、役職や部署単位で閲覧・編集・削除などの権限を細かく設定できるか。
  • データの一括管理機能
    顧客情報や案件情報のインポート・エクスポート、一括編集・削除などの操作が管理画面上で容易に行えるか。
  • 操作ログ・更新履歴の確認機能
    「誰がいつ、どの情報を更新・削除したか」を記録できるか。トラブル発生時の原因調査や不正操作の防止にも役立つ。
  • アラート・通知の管理設定
    特定条件に基づいたアラートや通知(例:案件が一定期間更新されていない場合のリマインド)を管理者側で設定できるか。
  • レポートやダッシュボードのテンプレート管理
    全社共通の指標やKPIをもとに、管理者が定義したレポートを各部署・役職へテンプレートとして展開できるか。
  • セキュリティ管理とバックアップ体制
    IP制限、2段階認証、ログイン履歴の確認、データのバックアップ・復元対応など、セキュリティ面での統制が可能か。

こうした管理者視点の要件は、ツールの保守性・拡張性・安定性を担保するものです。

CRMを一時的なシステムではなく、中長期にわたって使い続けられる情報基盤にするためには、「管理しやすさ」は現場の使いやすさと同等に重視すべきポイントです。

現場目線での確認ポイント

一方で、日々CRMを使って顧客情報を入力・活用するのは現場の営業担当やカスタマーサクセス担当です。現場にとって「操作が煩雑」「画面が見づらい」「入力の負担が大きい」といった印象を持たれてしまうと、CRMが定着せず、形骸化してしまう恐れがあります。

現場視点では、次のような使いやすさの条件を事前に確認しましょう。

  • 管理画面や入力画面の使いやすさ
    マウス操作が中心なのか、キーボードでも効率よく操作できるのか。画面の見た目や操作感(UI/UX)が直感的で使いやすいか、現場のワークフローに合っているか。
  • 権限管理の柔軟性
    チームや役割ごとに「必要な情報だけが見える」「不要な情報は非表示になる」といった、情報の見せ方の最適化が可能か。
  • カスタマイズ性
    項目の追加・削除や画面レイアウトの変更など、業務に合わせたカスタマイズが自社で簡単にできるか。
  • モバイル対応/オフライン対応
    外出先や電波の悪い環境でも最低限の操作が可能か。スマートフォンやタブレットでもストレスなく使えるか。

これらは一見「細かいこと」のように見えるかもしれませんが、現場にとっては「使う・使わない」を決める大きな要素です。現場メンバーにヒアリングしながら、「無理なく使い続けられる条件」を整理しておくと安心です。

CRM/SFA製品の選定ポイント

CRM/SFAの製品選定は、導入検討フェーズの中でも、特に時間と労力がかかるステップです。なぜなら、市場には数十種類以上のCRM/SFAツールが存在し、それぞれに強み・弱み、ターゲット、価格帯、拡張性、操作性などが異なるためです。

ここでは、製品選定を進めるうえで重要な「比較観点」と、選定時によくある失敗パターンを整理し、自社に合った製品を見極めるためのポイントを見ていきます。

主な比較観点(機能、価格、操作性、拡張性、サポート体制など)

CRM/SFAの製品比較にあたっては、以下のような軸での評価が一般的です。

複数の製品を並べて比較表を作成する場合も、違いを見える化して整理しましょう。

比較観点と確認ポイント一覧

観点

内容

確認すべきポイント

機能

顧客管理、案件管理、リード管理、レポート、ワークフローなど

自社の要件に対して過不足なく対応できるか

操作性

UIの直感性、入力のしやすさ、画面の構成

現場が迷わず使えるデザインか

カスタマイズ性

項目追加、画面レイアウト変更、ワークフロー構築

業務にあわせて柔軟に設計できるか

価格

初期費用・月額費用・ユーザー課金・オプション料金など

機能に対してコストは見合っているか(総コスト視点)

拡張性

他ツール連携(MA、会計、人事など)、API対応

将来的な連携やデータ活用を見越して柔軟か

サポート体制

マニュアル、チャット/電話サポート、導入支援の有無

導入後の不明点やトラブル時に対応してもらえるか

これらの観点は、現場・IT・マネジメントそれぞれの立場で重視するポイントが異なるため、社内で事前に優先順位を決めておくとスムーズです。

製品選定時によくある失敗パターン

CRM遷移品の選定時にありがちな失敗には、以下のようなものがあります。

導入後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐために、あらかじめチェックしておきましょう。

「有名だから」という理由だけで選ぶ

知名度が高く、他社導入実績がある製品でも、自社の業務フローに合わない場合は使いこなせず、定着しないことがあります。ブランドで選ぶのではなく、業務適合性と使い勝手で判断することが重要です。

実際の業務フローに合っていない

機能は充実していても、実際の業務プロセスや入力や操作のしやすさが現場とフィットしない場合、現場の負担になり、「結局Excelの方が楽」となるリスクがあります。

必ず自社の具体的な業務シナリオで評価し、「現場が本当に使えるか?」 を確認してから決めましょう。

将来の拡張性を考慮していない

最初は最低限の機能で導入したとしても、1〜2年後に「マーケティングツールと連携したい」「外部データを統合したい」といった新たなニーズが出てくることはよくあります。このとき、ツール自体に拡張性がなかったりデータ構造が硬直的だったりすると、再導入や大幅なリプレイスが必要になる場合もあります。

CRM/SFAの選定は「今の課題に合うか」だけでなく、「運用できるか」「長く使えるか」「将来の拡張に耐えられるか」といった中長期視点で評価することが重要です。

製品比較・選定プロセスを設計する

CRM/SFAの選定では、最終的に導入する製品を1つに絞る必要がありますが、その前段階として、比較対象のリストアップ・評価・検証という選定プロセスそのものを設計しておくことがとても重要です。このプロセスが曖昧なままでは、担当者の主観や場当たり的な評価に左右されてしまい、「結局どれが良いのか分からない」「誰も納得できない」状態に陥るリスクがあります。

ここでは、製品比較を行う際に押さえるべき3つの具体的ステップを解説します。

比較対象製品の絞り込み方

比較対象とするCRM/SFA製品をいきなり1〜2製品に絞り込まず、ある程度の数の製品を比較するようにしましょう。まずは5〜6製品程度を候補としてリストアップし、比較しながら絞り込んでいくのが理想です。

製品候補を集める際の情報源:

  • ベンダーの公式サイト、料金プラン、導入事例
  • 比較サイトや専門メディアのレビュー記事
  • 同業他社の利用状況や口コミ
  • ITベンダー・代理店からの紹介

これらの情報をもとに候補リストを作成しましょう。リストアップした製品は、自社の要件(業務・システム・運用)に照らして、初期フィルタリングを行います。例えば、「リードナーチャリングに強い製品」や「MAツールとAPI連携が必要」といった絶対条件がある場合、この段階で候補から外していきます。

製品デモや無料トライアルの活用

比較候補を3製品程度に絞り込んだら、必ず実機での検証を行いましょう。製品紹介資料や機能表だけでは、現場での使い勝手や業務との適合性までは判断できません。実際に操作してみて、現場で無理なく使えるかどうかを次のような観点で確認しましょう。

デモ・トライアルで確認すべきポイント:

  • 案件登録や顧客情報の入力フロー
    → 日々の業務フローに違和感なく組み込めそうか
  • タスク管理やリマインダー機能
    → 営業活動やフォロー業務に実用的に使えそうか
  • レポートやダッシュボード作成
    → 現場でも無理なく作成・活用できるか
  • 権限設定や表示制御
    → 自社の組織構造やチーム運用に対応できる柔軟性があるか

また、検証は導入担当者だけでなく、実際に使う営業・カスタマーサクセスのメンバーにも参加してもらうのが理想です。現場の声を取り入れないまま進めると、導入後に「こんなに使いづらいと思わなかった」という反発を招く可能性があります。

比較表・スコアリングシートを作成する

複数の製品を評価する際には、要件ごとに採点できる比較表・スコアリングシートを作成すると、主観に頼らず客観的に判断できます。

スコアリングの設計ポイント:

  1. 1要件ごとに「重要度(ウェイト)」を設定する
    例:必須要件 → 3点、望ましい要件 → 2点、あれば嬉しい要件 → 1点
    といったように、項目ごとに重み付けをしておきます。
  2. 各製品ごとに対応度を点数化すす
    実際にデモやトライアルを通じて、要件に対する対応度を点数化していきます。
  3. 操作性・サポートなど「感覚的な項目」は複数人で評価
    現場メンバーや管理者など、複数人の意見を平均化して客観性を高めます。
  4. 合計点だけでなく、項目ごとの得点差を可視化
    「どの項目で差がついたのか」も見える化し、納得感のある議論につなげます。

このような比較表を用いれば、単なる「印象」ではなく、目的・要件に基づいた選定プロセスが可視化され、社内の合意形成もスムーズになります。

比較表例:

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社内の関係者を巻き込む検討体制を作る

CRM/SFAの導入は、営業・マーケティング・カスタマーサポート・IT・経営層など、複数の部門が連携して進める全社プロジェクです。そのため導入の初期段階から関係者を巻き込み、「導入の目的と価値」を全社で共有できる体制を整えておく必要があります。ここでは、関係者ごとの役割と巻き込み方のポイントを解説します。

営業部門・マーケ部門・サポート部門それぞれの視点を集める

CRMを日常的に使うのは「現場のメンバー」です。特に次のような部門から、事前にしっかり意見を集めておくことが重要です。例えば、以下のような視点が参考になります。

【営業部門】

  • 案件の見える化をしたい
  • 報告作業の手間を減らしたい
  • 活動の抜け漏れを防ぎたい

【マーケティング部門】

  • リードの反応や営業フォロー状況を把握したい
  • 施策改善に活かしたい

【カスタマーサポート部門】

  • 顧客の過去対応履歴を確認したい
  • 一貫したサポート対応につなげたい

現場部門を検討段階から巻き込むことで、「自分たちが関与した仕組みだ」という意識が醸成され、導入後の協力・活用促進にもつながります。

IT部門(情シス)の意見を早めに取り入れる

見落とされがちなのが、情報システム部門(情シス)の関与です。

CRMはクラウド型であっても、社内ネットワーク、セキュリティポリシー、既存システムとの連携といったIT要件に密接に関わるため、後から情シスに確認するのではなく、初期の検討段階から参画してもらうべきです。

IT部門が早期から関与するメリット:

  • ベンダーとの技術的なやり取りをスムーズに進められる
  • セキュリティ要件(認証方式、IP制限、操作ログなど)に対する事前確認ができる
  • 既存ツール(MA、会計、ERPなど)とのAPI連携や移行計画に現実的な判断を下せる

とくに中規模以上の組織では、情シスの了承がないと導入が進まないケースも多いため、協力関係を築いておきましょう。

経営層への中間報告・期待値調整も忘れない

最後に重要なのが、経営層とのコミュニケーションです。CRMは部門レベルの改善ツールであると同時に、「顧客情報を経営資産としてどう活用していくか」にも関わる戦略的な投資です。だからこそ、検討段階で経営層に目的・期待値・スケジュールなどを共有し、プロジェクトの承認と継続的なサポートを得ておく必要があります。

報告のポイントは以下の通りです:

  • なぜCRM導入が必要なのか(現状の課題と導入目的)
  • どう進めるのか(検討体制、ステップ、関係者)
  • いつまでに何を実現するのか(短期・中長期ゴール)
  • 導入後に期待される成果とリスク(定着支援の計画含む)

経営層は全社視点でROI(投資対効果)や業務負荷を見ています。現場視点だけでなく、「経営の意思決定に資するCRMである」ことを伝えることが、全社導入への信頼を築くポイントとなります。

導入検討フェーズで押さえておくべき注意点

CRM/SFAをうまく導入するためには、「やるべきこと」を丁寧に進めるのと同時に、「やってしまいがちな落とし穴」に気づき、先回りして対策しておくことが重要です。ここでは、導入検討フェーズでよくあるつまずきや失敗パターンを解説します。いずれも軽視されがちですが、運用フェーズで「こんなはずじゃなかった」とならないための、実践的なポイントです。

現場ヒアリングを「形式的」にしない

CRM導入前には現場へのヒアリングを行う企業が多いですが、聞き方や深さを間違えると、表面的な情報しか得られず、ツールが実情に合わない設計になってしまいます。

例えば、以下のようなケースは要注意です。

  • 「今の業務に困ってますか?」→「特に困ってません」という返答で終わってしまう
  • 一部の代表者だけに聞いて、現場全体の実情が反映されていない
  • 営業とサポートで、顧客管理の考え方がそもそも違うのにヒアリング項目が同じ

「誰が・いつ・どんな情報を・どこに・なぜ入力しているのか」といった、実務の具体的な流れを丁寧にたどることが重要です。加えて、過去にCRMや業務ツールで失敗した経験があれば、その理由も確認しておきましょう。そうした情報が、導入設計のヒントになります。

コストだけで判断しない(総コストを意識する)

CRM導入では「月額いくらかかるか?」というコスト面の話題が注目されがちですが、「本当にかかる総コスト」は月額利用料だけではありません。

総コストに含まれる項目は以下の通りです。

  • 初期導入費用(設計・設定・データ移行・研修など)
  • 月額利用料(ユーザー単位/機能単位など)
  • 関連ツールとの連携費用(API連携・外部システム対応)
  • 社内工数(設定・管理・マニュアル作成・ヘルプデスク対応など)
  • 運用・改善のための継続的な保守コスト(管理者の時間、追加研修)

一見コストが安く見えても、導入後に「この機能は有料だった」「使いこなすのに多くの社内工数がかかる」といった事態になれば、結果として高コストな投資になってしまいます。

金額だけでなく、「使いこなせるコスト感」「長期的な価値」「運用負荷のバランス」を見て、本質的な費用対効果を評価することが肝要です。

最初から「完璧」を目指さない(スモールスタートの考え方)

CRM導入において、最初から全ての機能を活用しようとしたり、完璧な業務設計を目指しすぎると、現場にとってハードルが高くなりすぎて定着しないというリスクがあります。

よくある失敗例:

  • 入力項目が多すぎて、現場が使いづらいと感じる
  • フローが複雑になり、誰も活用しなくなる
  • 高度な分析レポートを前提にした結果、入力ミスや漏れが増える

重要なのは、導入初期は「最低限うまく回る状態」を作ることです。

まずは「顧客情報の登録・検索」「案件の進捗確認」「タスク管理」など、現場にとって価値が高く、かつ習得が容易な領域から始めましょう。

その上で、慣れてきた段階で少しずつ項目やプロセスを増やし、少しずつ「成果を生み出せる仕組み」を作り出していくと良いでしょう。

例えば次のように、フェーズを分けて取り組むイメージが重要です。

  • フェーズ1:とにかく使い始める
    顧客情報の登録・案件管理・タスク管理など、「まず最低限、使える状態」 を作る。
  • フェーズ2:業務に定着させる
    入力ルールを整えたり、現場からのフィードバックを受けて使いやすさを改善し、「無理なく使い続けられる状態」 に育てる。
  • フェーズ3:データを活用して成果を出す
    蓄積した情報をレポート・分析・施策改善に活かし、「業務成果につながる仕組み」 へとステップアップさせる。

このような注意点を事前に理解しておけば、導入検討フェーズでの意思決定や設計がブレず、導入後の定着・活用フェーズでもつまずきにくくなります。