本レッスンでは、顧客理解とは何か、DXとの関係性、顧客理解の進め方などについて詳しく説明します。
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DX戦略を支える顧客理解
顧客理解とは何か
顧客理解とは、顧客のニーズ、行動、期待、価値観やライフスタイル、意思決定のプロセスなどを深く理解することを指します。
顧客理解は、単に顧客の基本・属性情報を把握することではなく、顧客がどのような背景や動機を持って行動するのか、何を重要視しているのか、どのような問題や課題を抱えているのかを詳細に把握することを意味します。顧客をさまざまな視点から把握し、理解を深める必要があるため、個人の経験や感覚だけではなく、顧客行動などの事実・データに基づく理解が求められます。
顧客への理解を深めることは、マーケティング活動、製品開発、効率的な営業活動の実施、カスタマーサービスの向上など、多岐にわたるビジネス活動において極めて重要な要素です。
例えば、マーケティング活動においては、顧客が抱えている課題を正しく把握できていれば、その課題を解決するためにどうすればよいかを具体的に示すセミナーを開催したり、課題に合った「お役立ち資料」を提供することで、集客に役立てることができます。
さまざまな業務において、なかなか成果が上がらない状況では、顧客理解が足りていないのではないかという前提で、実施している施策を見直す必要があります。
まずは顧客理解から
多くの企業は、売上増加やコストの低減による利益の向上を目指してDXや新たな施策の推進を行いますが、最終的な成果を求める前に、まず顧客を理解することが重要です。
例えば、自社の業務を効率化するために、請求書のデジタル化を推進することを考えてみましょう。
請求書のデジタル化は、未実施の企業にとって、法令順守の観点でも今後避けることのできない課題であり、デジタル化によって確実に業務の効率化を実現できる可能性が高い領域でもあります。
しかし、自社が抱えている顧客層によっては、デジタル化の実施タイミングや実現方法を慎重に検討する必要があります。具体的には、請求書を受け取る側の企業が業務プロセス上、紙の請求書の受取が必要であったり、取引先が大企業で、独自の電子取引方法が求められるような場合です。
このような状況で、「コストが安いから」、「操作性が高いから」、「自社の業務が便利になるから」という理由だけで、請求書を作成・管理するサービスを導入しても、顧客ごとに多くの例外処理が発生し、思ったよりも業務効率化が進まないといったことも起こり得ます。
顧客に関連する業務改善を行うような場合、顧客ニーズや課題、置かれている状況を理解することから始める必要があります。理解した内容に応じた解決策を実施することで、顧客満足度が向上し、結果的に売上や利益の向上につながるという順番を忘れないようにしましょう。
顧客理解とDXの関係性
顧客理解は、DXと切っても切れない関係性を持っています。
DXは、デジタル技術を活用してビジネスを変革し、競争力を高めるプロセスですが、その中心には常に顧客があります。
顧客理解を深めることで、顧客のニーズや期待に応じたサービスや製品の提供が可能となり、競争力を高めることを目的としたDXの効果を最大化することができます。
また、顧客理解を深めるためには顧客に関するさまざまな情報を収集・分析する必要がありまが、DXにより業務のデジタル化を推進することで、顧客理解に必要なデータを収集できるようになり、より一層顧客理解を進めることができるようになるという双方向の関係性も持っています。

収集するべき顧客情報には、顧客との直接的なコミュニケーションの履歴、アンケート調査、インタビュー結果、購買履歴情報、Webサイトの行動データ、ソーシャルメディアのデータなどが挙げられます。
これらのデータを基に、顧客の行動パターンや傾向を分析し、セグメント化することで、より具体的で精緻な顧客像を描くことができます。
多くの企業で「顧客管理」もしくは「顧客関係性管理」とも訳されるCRMツールが導入される理由の一つは、この顧客に関連するさまざまな情報を一元管理して顧客理解を深める基盤を作ることといえるでしょう。
中小企業における現実的な顧客理解の進め方
中小企業における顧客理解の進め方では、人的資源をはじめとしたさまざまなリソースが限られているため、大企業とは異なるアプローチが求められます。基本的な流れは大きくは変わりませんが、すでにあるデータなどを活用しながら、効率的な方法で顧客理解を進めていきましょう。
具体的には、以下のステップで顧客理解を進めるのが有効です。
顧客理解の進め方①ペルソナの作成
ペルソナとは、製品やサービスを利用する典型的なユーザーや顧客を具体化した架空の人物像のことを指します。
ペルソナは、特定のセグメントに含まれる複数の顧客を1人の具体的な人物像として落とし込んで設定するため、組織内での顧客像の共有、具体的な施策の検討、顧客視点での業務の検討などに役立ちます。なお、顧客層が複数にわかれるような場合には、ペルソナも複数設定します。
ペルソナの作成は以下のような手順で進めましょう。
ペルソナを作成する顧客セグメントの決定:まず、既存顧客、その中でも今後増えて欲しい優良顧客をあきらかにします。その上で、購買履歴や問い合わせ内容、営業活動情報などを活用して、優良顧客の行動パターンやニーズを把握します。
顧客インタビューやアンケート:顧客から直接意見を聞くことも重要です。インタビューやアンケートを通じて、顧客の潜在的なニーズや問題点を掘り下げます。
ペルソナの作成:得られたデータを基に、顧客のペルソナ(代表的な顧客像)を作成します。これにより、ターゲット顧客の具体的なニーズや行動を理解しやすくなります。
例えば、CRM/SFAツールの導入を検討するペルソナのサンプルは以下のようになりますので、参考としてください。
導入検討者 | 意思決定者 | |
業種 | 製造業 | |
企業規模 | 300人 | |
営業組織の規模 | 10人 | |
役職 | 営業主任クラス | 営業マネージャ― |
抱えている課題 |
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情報収集手段 | インターネット、SNS | 展示会、書籍、部下からの提案 |
顧客理解の進め方②カスタマージャーニーマップの作成
顧客理解を進める際には、問い合わせが発生した時点でどう対応するかといった点だけで捉えるのではなく、どのような背景で問い合わせを行っているのかといった、線や面のイメージで顧客を捉えることが重要です。これは、具体的なコンタクトが発生する前段階から顧客行動やニーズを一貫して把握することを意味します。
カスタマージャーニーマップは、顧客が特定の製品やサービスを検討・導入・利用する過程を示したものです。顧客が初めて製品を知る段階から、購入、使用、そして再購入に至るまでの一連の流れを可視化することで、各段階での顧客の体験や状態、提供すべき情報などを理解することができます。
前のステップで設定したペルソナごとにカスタマージャーニーマップを作成・活用することで、タッチポイント(顧客接点)における課題を特定し、具体的な対策を講じることができます。
フェーズ | 認知 | 理解 | 検討 | 導入 | 推奨 |
顧客の行動 | ・営業組織に関する漠然とした課題を持っている | ・SFAツールや導入事例についての情報収集を行う | ・自社の課題の整理 | ・意思決定 | ・SNS等への投稿 |
タッチポイント | ・SNS、ブログ | ・ホワイトペーパー、導入事例、動画コンテンツ、 ウェビナー | ・営業担当者 | ・営業担当者 | ・サポート担当、カスタマーサクセス担当 |
現状施策 | ・年2回の展示会出展 | ・SFAに関するホワイトペーパーやダウンロード資料、導入事例の定期的な公開 | ・セミナーおよび個別相談会の定期的な開催 | ・個別商談 | ・ユーザーコミュニティイベント開催 |
まずは、現状行っている施策や提供している情報などをまとめ、現状のカスタマージャーニーマップにまとめましょう。その上で、理想的なカスタマージャーニーを実現するためにどのような施策を行うべきかを検討していきます。
顧客理解の進め方③顧客理解を深めるデータの収集と活用
顧客理解を深めるためには、適切なデータ収集が不可欠です。組織内にあるデータを整理し、カスタマージャーニーマップで整理したタッチポイントやフェーズごとに新たなデータを収集・活用していくことが必要です。
理解を深めるために収集すべき主要なデータには以下のようなものがあります。
- 顧客属性データ:名前、年齢、性別、住所、所属する組織の業界、企業規模などの基本情報。
- 行動データ:購買履歴、ウェブサイトの閲覧履歴、問い合わせ履歴、セミナーや展示会の参加履歴など。
- 商談データ:購入/検討商品、購入金額、購入頻度、商談期間、商談の参加者など。
- その他:顧客満足度調査、レビュー、クレームなど。
このような顧客に関連するデータは、多くの企業ではExcelなどでバラバラに管理されているため、正しいデータに基づいて顧客理解を深めたり、カスタマージャーニーマップに沿って顧客全体の状態を可視化することが困難です。
顧客情報を一元管理できるツールにより、顧客の属性・行動データを集約することで、より深い顧客理解やカスタマージャーニーマップの可視化、施策の効果検証などを行うことができるようになるため、必要に応じてCRMツールなどの導入を検討しましょう。
顧客理解によるDXの具体例
ここからは顧客理解を深めることで、日々の業務やDXの推進にどのように役立つのかを具体例としてお伝えします。
具体例1:成果につながるマーケティング活動の実施
集客に課題のある組織では、どの集客手段が受注につながるのかが把握できていないため、なんとなく目についた展示会に出展してみたり、他社が行っているからという理由で似たようなセミナーを行うような非効率な活動を行っていることがほとんどです。
また、新たな集客手段を試してみても、効果検証が行えず、短期的に目に見える効果がでないためにすぐに別の集客手段に手を出して、いつまで経ってもノウハウが蓄積されないといったこともよく起こります。
このような状況で顧客理解を深めて業績向上につなげるには、まずは既存顧客(特に優良顧客)がどの集客手段をきっかけとして自社のことを認知し、契約に至ったのかを明確にすることが必要です。
優良顧客と同じ課題を抱えている顧客がどのような情報収集を経て商品やサービスの導入を行っているのかが分かれば、その集客手段(=タッチポイント)に人やお金といったリソースを集中することができるようになります。
具体例2:営業プロセスの改善と効率的なマネジメントの実現
営業活動に課題があり、毎年のように目標の未達が続いているような組織では、標準的な営業活動のプロセスが定義されておらず、どのタイミングでどのような情報提供や提案をすべきなのかが明確になっていないことがほとんどです。
また、顧客の状況把握と実施すべき行動が明確になっていないことが原因で、営業担当者の教育も進まず、一般的なプレゼンテーション研修を半信半疑で実施しているような状況もよく起こります。
このような状況で顧客理解を深めて業績向上につなげるには、まずは顧客の検討プロセスを明らかにし、マーケティング・営業プロセスを顧客視点で整理することが必要です。
顧客視点で、どのような情報提供や提案が必要となるのかが明確になれば、タイムリーで無駄のない営業活動が実施できるようになります。また、担当者ごとにどのプロセスがボトルネックとなっているかが分かり、営業マネージャーが必要に応じて指導したり、組織に必要な研修なども明らかになります。
まとめ
顧客理解を深めることは、マーケティング活動、製品開発、効率的な営業活動の実施、カスタマーサービスの向上など、多岐にわたるビジネス活動において極めて重要な要素です。
DXを推進し、競争力を高めるための業務改善を行う際に、顧客視点で業務を見直したり、顧客満足度を高めるような施策を選ぶことで、成果を上げるために効率的な活動を実施できるようになります。
まずは現時点で入手可能な情報やデータから顧客理解を深め、さらに顧客理解を深めるために、新たなデータを収集・活用するというサイクルを回すことを意識してDXに取り組んでいきましょう。